
忙しい1日を終え、仕事帰りの電車の心地よい揺れでうとうとしてしまうことはないだろうか。あるいは、平日の睡眠不足を補おうために休日に「寝だめ」してしまうという人も多いだろう。睡眠専門医の著者によれば、これらの行動は体内時計を狂わせ、夜の睡眠の質を下げる悪習慣なのだという。質の高い睡眠を取り、日々を元気に過ごすためのコツとは?本稿は、白濱龍太郎『「寝つきが悪い」「すぐに目が覚めてしまう」人のお助けBOOK』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。
体内時計を
狂わせないためには
私たち人間だけでなく、地球上に生存するすべての生物には、生まれながらに「体内時計」というものが備わっています。
これは、ある時間帯にはこのようなことがしたいと体が本能的に欲する、約24時間周期のリズムのことで、サーカディアンリズムと呼ばれます。
夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるのは、このサーカディアンリズムに起因しています。自律神経の働きや体温の変化、ホルモンの分泌などもサーカディアンリズムに基づいているのです。
太陽の光は、このリズムを毎日リセットして調整してくれます。サーカディアンリズムの周期は地球の自転周期より少し長いので、これがリセットできないと、就寝時間がどんどん後ろにずれていってしまいます。
人間の体内時計のリズムからいうと、ふだんの生活でもっとも眠くなる時間帯は、14時と夜中の2時前後です。
そこから逆算すると、眠りにくい時間は、脳が活発に働く10時ごろからお昼近くまでと、18時から22時ごろになります。
こうした時間帯を専門用語では「睡眠禁止帯」「覚醒維持帯」などと呼びますが、この時間帯に眠るのはけっして好ましくはありません。睡眠に悩みをもっている方は、人間が本来もっている体内時計を大切に生活してみてください。
また、寝る前にスマホやパソコン、テレビなどを見ると、画面から発生するブルーライトが脳の松果体という部位を刺激して、睡眠ホルモンの1つ、メラトニンの分泌を抑制します。これが体内時計を狂わせ、眠りたいのに眠れない状態をつくり出してしまうので注意しましょう。
電車でうとうとしても
眠気を我慢しよう
みなさんは電車やバスで座っているとき、つい、うとうとして眠ってしまうことはありませんか?
眠くなるのは、耳の奥にある前庭器官が感じる「前庭感覚」が影響しているとされています。
前庭感覚は重力やスピードなどから頭の傾きや体のゆれを感知する感覚で、上行性網様体賦活系と呼ばれる脳の神経系統に刺激を与えます。体が大きくゆれると強い刺激を与えて脳を目覚めさせる反面、小刻みなゆれだと与える刺激が弱くなり、脳の目覚めを促しません。
電車に乗っているときに感じるゆれはリズミカルで小さいため、上行性網様体賦活系の働きが弱まり、眠気を感じるようになるのです。