新型(豚)インフルエンザの影響でマスクの需要が爆発的に増えている。関西のみならず、首都圏の小売り店の店頭では「マスク完売しました」「入荷は未定です」の張り紙が並ぶようになった。

 全国マスク工業会によると、5月に2億枚以上あった在庫がすべて底を突いたという。「超立体」ブランドで知られるユニ・チャームなどは5月だけで前年同月比3倍の「フル生産」(幹部)に追われている。

 ところが、である。マスクメーカー幹部の顔色は思いのほか、さえない。じつはマスクは返品が認められている商品なのである。ドラッグストアなどの小売りは、毎年、秋~春の需要を見越して店頭在庫を増やすものの、風邪や花粉症の時期が過ぎた5月に“季節商品”として返品するのが慣例となっている。

 メーカー幹部は、「マスクは、返品された商品を出荷する“返品再生”が認められているが、箱がつぶれていたりすれば廃棄することもある」という。そのマスクメーカーでは休日返上で製造をしているものの、「設備投資を伴う増産はまったく考えていない」と慎重姿勢を崩さない。

 日用品トップの花王でさえ、昨年にマスクから撤退したほどで、収益が厳しいビジネスともいえる。

 しかも、6月上旬には安価な中国製マスクが日本に到着することになっている。新型インフルエンザの感染者数の伸びが鈍化しているうえ、専門家から「季節性のインフルエンザと変わらない」と弱毒性が強調され始めた。「学校や企業がマスク着用の呼びかけを解除する日も近い。マスク市場が供給過多に陥るのは時間の問題」と業界内では見られている。

 一部のメーカーには「国産が安心と考える消費者は確実にいるうえ、今回の経験でマスクの備蓄を考える消費者も増えている。マスクはこれから収益が出るビジネス」という見方もあるものの、業界全体では喜んでいられないのが実情のようだ。


(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)