総合商社の三井物産がプロ野球団「広島東洋カープ」の経営指南に乗り出すことになった。「ラーメンからミサイルまで」と称されるように、幅広い事業を手がけるのが商社の強みだが、プロスポーツビジネスは未知の分野だ。
10月末、三井はカープから来春オープンする新球場のスポンサー開拓業務を受託したと発表した。球場内の看板広告をはじめ、新球場の運営に関するさまざまな権利を企業に販売する。プロ球団がこうした業務を一括して外部に委託するのは異例だ。
カープ広報室は「うちは球場内の固定式の看板など、従来型の広告手法しか知らない。経験豊富な三井物産の力を借りて、少しでも収益を伸ばすことができれば」と期待を寄せている。
カープは今期4位と11年連続でBクラスに低迷している。12球団で唯一親会社を持っていない市民球団のため、十分な運営資金がないことが一因とされる。昨シーズンオフにはエースと主砲が同時に退団する事態にも見舞われた。
プロ球団の主な収益源は、テレビ放映権料と入場料、そして看板広告や飲食物販売などの球場運営に関する収入だ。カープの売上高は年間60億円程度とみられ、人気球団の半分にも満たない。
巨人戦の全国中継の減少などで放映権料が急減する中、球場運営に関する収入の重要度はますます高まっているが、収益を上げるノウハウを持っていないのが実情だった。球場の建て替えを機に、外部委託に踏み切ったというわけだ。
三井は商社としての顧客ネットワークなどを活用しながら、スポンサーゲームの企画や運営、商標権の販売まで手がける方針で、スポンサー収入に応じて成功報酬を受け取る。同社関係者は「新しい発想で球団の広告事業を総合的にプロデュースし、何としてでも成功させる」と並々ならぬ意欲を燃やしている。
というのも、三井はこの事業をプロスポーツビジネスの本格展開の第一歩と位置づけているからだ。
カープでの成功を足がかりとして、この分野で事業を拡大していく考えだという。すでにカープからの業務受託を発表後、三井側には複数のプロスポーツ団体から「詳しい支援内容を聞かせてほしい」との問い合わせが入っている。
巨人戦の視聴率低迷からも一目瞭然だが、放映権料依存のビジネスモデルはすでに崩壊しており、どの球団も新たなスポンサーはのどから手が出るほど欲しいところ。三井の成果次第では、外部委託の動きが一気に広がるか可能性もある。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)