現役と監督時代を通して16回の日本一を誇る“優勝請負人”工藤公康氏。そんな通算224勝の工藤氏が、最も苦にした右と左の打者各1名のすごさを挙げ、「配球」の基本をわかりやすく伝える。※本稿は、工藤公康『数字じゃ、野球はわからない』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。

去年打たれていても今年は打たれない
「苦手な相手」が毎年変わるワケ

西武ライオンズ時代の工藤公康西武ライオンズ時代の工藤公康 Photo:SANKEI

 投手も打者も「苦手な相手」がいる。それは1年間の対戦成績に表れる。ただし、いつも苦手というわけではない。要は投手で言えば、去年よく打たれたからといって今年も打たれるかというと、それは今年投げてみないとわからないのだ。

 たとえば、「去年はストレートもカーブもスライダーもタイミングが合っていてよく打たれた。データを見ても対戦成績は3割6分だった」という打者でも、今年はぜんぜん打たれないというケースがある。

 打者で言えば、「去年はすごくタイミングが合っていたのに、今年はまったく合わない」というケースがある。

 お互いに何かを変えたわけではないのに、なぜ、そんなことが起こるのか。投手も打者も、自分で気がつかないうちにタイミングがズレることがあるからだ。つまり、投手からすると、打者のタイミングが合わないほうに、たまたまズレたわけだ。

 あるいは、投手の調子が悪いときは打者が打ちにくそうにする。調子がいいときは打者が打ちやすそうにするという場合もある。

 打者の場合、コンディションの違いで苦手な投手が変わるケースもある。たとえば、ある打者が、あるシーズンの終盤に自打球で足の指を骨折したとしよう。そのせいでオフの間、あまり練習できなかった。もともとその打者は足でタイミングを合わせるタイプだった。

 それで足が治って次のシーズンが始まる。すると、それまでタイミングが合っていた投手にはタイミングが合わなくなり、合わなかった投手には合うようになる、ということが起こることがある。

落合博満とイチローが
苦手な打者の代表格

 それほどタイミングというのは微妙なもので、投手にとっても打者にとっても大事なものなのだ。それこそ時間にしたら0.01秒という世界だろう。ほんの少しタイミングがズレるだけで、ライナーになったり、フライになったり、ゴロになったりして、ヒットになったりアウトになったりする。投手と打者はそういう微妙な世界で戦っている。