一部のアジアの国々の焦燥感

 米国のアジア同盟国からすれば、TPPは米国がアジアでの地位を守るための努力の結晶であり、また中国に対してチェック・アンド・バランスを図るという姿勢の表れだ。つまり、TPPは米国の「アジアのリバランス」戦略における経済面での立脚点なのである。

 この観点から見れば、一部のアジアの国々の焦燥感も理解できる。近ごろ、シンガポールのリー・シェンロン首相は、「TPPはアジアにおける米国の信用を計る『試金石』だ」という見解を示し、「TPPは米国の労働者と企業に有利なだけでなく、米国が引き続きアジア太平洋地域でリーダーシップを行使し、運命を共にする我々アジアの同盟国とのパートナーシップを強化するという明白かつ重要なシグナルだ」と表明したうえで、さらに「もし米国が長年にわたり苦心しながら交渉を進めてきたTPPを否決するならば、日本の安倍晋三首相をはじめ米国のアジアの盟友は政治面で損害を被ることになり、米国とアジアの同盟国との関係は長きにわたって損なわれることになる」とも語った。

 日本でもTPPはかなり危なくなったと懸念する声が多い。しかし、このような同盟国からの不満の声には、恐らく米国内の政策を根本的に変化させるほどの力はないと思われる。

 TPP頓挫の背後で、米国の孤立主義の傾向が高まっている。もちろん、TPPが消滅の危機に瀕しているという現状は、政治の駆け引きの結果とも言い切れない。実のところ、TPPそのものに大きな欠陥が存在している。TPPはただの貿易協定ではなく、実際には各国の国内経済体制および監督・管理規則の変革、そしてグレードアップさせた「高基準」の自由貿易協定の締結を試みるものだ。

 しかし、いわゆる「高基準」は「高コスト」を意味する。参加国に対して経済主権を譲渡させるという面で、要求が高すぎるかもしれない。まさにこのことが原因で、米国だけでなくTPP参加国である日本などのアジア諸国からもTPPに難色を示す動きが常に見られる。

 事実上、TPPは米国社会に強烈な衝撃を与え、同国の政界や財界など各方面が利益をめぐって駆け引きをするという事態に発展したが、アジア太平洋地域の多くの国々にとってもそれは同様だ。協定は合意されたとはいえ、TPPはこれまでずっとどこか得体の知れない新制度とみなされており、存在そのものがぼやけたままだが、その最終的な姿は各方面間での駆け引きを通じて形成されていくことだろう。