「持参金」という滑稽噺がある(*1)。

 ある男のところに、知り合いの番頭が、借金の取り立てにやってきた。以前に貸していた20円、男の親に世話になっていた義理があるから返済期限はつくらなかった。だが、緊急事態が起きてすぐに金がいるので、ほかから借りてでも今日中に返してほしいと番頭は言う。

 返すと約束をしたものの、この男には20円もの大金をすぐさま工面できるほどの甲斐性はない。どうしたものかと考えていると、町内に住む世話好きの金物屋がやってきて、お前もいい年なのだから、そろそろ嫁を取らないかと持ちかけた。とあるお店の女中をしているそのお相手は、器量は十人並み以下で、しかもどこかの男の子供をはらんでいて、もう臨月になっている。ただし、それだけの悪条件だから、持参金として20円もってくるというのだ。借金を返済するあてのない男は、持参金に目がくらんで、今日中に嫁が取れるのならばと承諾した。

 ところが、その晩嫁を連れてきた金物屋は、肝心の20円を持ってこないで、いま工面しているところだからもう少し待てと言い残して帰ってしまう。これでは困ると思っているうちに再び番頭が催促に来た。確かな人に約束してもらったから、20円は間違いなくできると答えると、ではここで待たせてもらおうと番頭は腰を下ろし、金が急に必要になったわけを話しだした。

 実は、奉公先の女中と深い仲になってはらませてしまった。近々のれん分けを控えているというのに、こんなことが旦那の耳に入っては一大事である。それで、普段から目をかけている出入りの金物屋に相談したら、20円ほど持参金を付けたらどこぞの阿呆がもらうだろう。悪いようにはしないから任せておけと言うのでお願いした。しかし、20円という大金は手元にはなく、事情が事情だけにそのような金を貸してくれと周囲に頼むわけにいかない。なので、悪いとは思いながら仕方なく、借金の取り立てをしてしまった。そうしたら、嫁にもらうという阿呆が見つかったと金物屋が知らせてきた。20円が用意できなければ途方にくれるところだった。