『竹取物語』は日本最古の物語とされる。原本は現存せず、作者不詳である。まずは、物語を簡単に復習しておこう(*1)。

 昔、野山にわけいり竹を取っては細工をして売り、なんとか生計を立てているじいさんがいた。あるとき光輝く竹のなかに、三寸ほどの女児を見つけ、何かの縁だと思いこれを育てた。そのうちに、じいさんは黄金の入った竹をたびたび見つけて豊かになった。女児はすくすくと育って光輝く美しい娘となり、かぐや姫と名付けられた。

 年頃になると、数限りない男たちが嫁にしたいと言い寄るが、かぐや姫は相手にしない。しかし、立派な身分をもつ5人の色好みの貴公子たちには、かぐや姫の幸せな結婚を願うじいさんの食指が動いて、かぐや姫を説得にかかる。かぐや姫は、5人の貴公子たちそれぞれに、自分の見てみたいごく珍しいものを伝え、それをもってくれば妻になろうと約束する。5人の貴公子はそれぞれに挑戦してみるものの、ことごとく失敗して惨めな目にあい、1人また1人とかぐや姫の前から姿を消していった。

 しかし、時の御門が求婚したときには、かぐや姫にも情がわき、3年間も御門と文のやりとりを続ける。しかし、かぐや姫は元は月の国の人、ある十五夜の日に月の国から迎えの使者がやって来る。羽衣を着て月に帰れば地上のことは一切忘れてしまうことを知っていたかぐや姫は、御門に不老不死の薬を託してから使者とともに昇天する。もはやかぐや姫に会えないのならば、不老不死になっても仕方がないと、御門は薬を富士(不死)の山で焼かせる。

*1:『竹取物語・伊勢物語・堤中納言物語』(ちくま文庫、1992年)所収の臼井吉見による現代訳を参考にした。

かぐや姫の断り方戦術

 『竹取物語』の中に興味を惹かれる点はいくつもある。言い寄る男たちを一顧だにしなかったかぐや姫が、5人の貴公子たちには、条件を持ち出し態度を変えたところなど、非常に面白い。実はかぐや姫自身が、心変わりの理由を語っている。親の薦めをかたくなに断り続けるのが気の毒なので、あえて手に入れ難いものを頼んだのだと。つまり、断るのではあるが、かたくなに断るよりは、実現できそうもない条件を提示して実質的に断るほうが、幸せを願い結婚を勧める親や、身分の高い人たちへの配慮になるとかぐや姫は主張するのだ。