前回まで家計と一般政府の貯蓄と投資のバランスを見てきたが、真に驚嘆すべき変化があったのは、非金融法人企業である。
この部門は、戦後の日本において、継続的に資金不足部門であった。それは、多額の設備投資を行なってきたからである。それに必要な資金は、主として銀行からの借り入れによって調達された。「家計の貯蓄が銀行を通じて企業に貸し出される」というのが、日本経済の基本的な資金循環構造だったのである。
ところが、1990年代の末以降、この構造に大きな変化が生じた。その状況は、【図表1】に示すとおりである(注1)。
それまでマイナスであった「純貸出」が、98年度において約27兆円という大きなプラスに転じた。つまり、企業が資金過剰部門になったのである。もっとも、純貸出がこのように急膨張したのは、一時的な現象であった。この変化を引き起こした最大の要因は、資本移転(受取)がこの年に急増したことだ。
純貸出額は99年度には1.4兆円に縮小した。そして、その後も2001年度までは10兆円未満の水準だった。ところが、02年度からふたたび20兆円台に拡大し、その後も05年度まで20兆円台を継続した。
つまり、98年度を除外して長期的な傾向として見れば、企業の純貸出は、97年度までマイナスであったが、90年代の末にプラスに転じ、02年度から05年度まで20兆円台の水準になったのだ。06年度以降、額は縮小したが、プラスであることに変わりはない。
このような変化が生じた原因は、貯蓄と投資の両面にある。すなわち、投資が90年代の初めから03年度まで減少傾向にあった半面で、貯蓄が増加したのである。