「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。
この記事では、本書の内容に関するインタビューを掲載します。(構成:小川晶子)

才能よりも大事なのは「長く続けられること」
――山口さんは、自分の「強み」は勘違いしやすく憧れと混ざりやすいので、フィードバックを意識すると良いとお話されています。関連してお聞きしたいのですが、「才能」とはどういうものだと思われますか?
山口周氏(以下、山口):生まれ持った資質というものはあるでしょう。ただ、それよりも大事なことは「長く続けられる」ということです。
本の中でも紹介した話ですが、棋士の羽生善治さんが「将棋はとにかく長くやっていくものなので、才能よりも、根気よく続けられることの方が大事」と言っています。
子どもたちに会って将棋を指すと、たくさん手が読める、発想が豊か、正確に指せる……といった素質が見えるそうですが、そういう素質によって棋士としてのキャリアが決まるかというとそうではない。
一日8時間の将棋を20年30年続けられるかどうかのほうが重要だというのですね。才能がある子も、だんだん飽きてしまって1日5時間にしたい、週3日にしたいとなってくると必ず脱落するんです。
――将棋を楽しんでいて、ずっと続けられる人にはかなわないと。
山口:僕たちは「自分にはどんな才能があるか」「自分が人より得意なことは何か」という論点から職業を選ぼうとしがちですが、人生が超長期のプロジェクトであることを考えると、実はその「才能」も立脚点として弱いんです。
長く楽しめて、追求し続けられる領域が見つかると強いですよ。
「他の人にはないユニークな特徴」を探せ
山口:才能や強みに関わる経営理論に「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」があります。企業の競争力は、その企業の有する独自の資源や能力で決まるというものです。
RVBでは、「有用性」「希少性」「模倣困難性」「代替不能性」の4つの条件を満たした資源を確保することで、競争優位を確立できると考えます。
有用性は当たり前だとして、残りの3つをひっくるめて表現すると「調達困難性」です。
個人に当てはめてみると、いま流行りの資格や知識に時間資本を投下して学ぶことはスジが悪いことがわかると思います。学べば誰でも身につくものは、調達可能ですから競争優位に貢献しないのです。たとえばロジカルシンキングが流行っているからと一生懸命学んでも、みんなロジカルシンキングができる中では強みになりませんよね。
競争優位に貢献するのは「他の人にはないユニークな特徴」です。
――なるほど。そのユニークな特徴を見つけるには、どんなところに着目すればいいのでしょうか。
山口:一つの考え方は、単純に「時間を大量に投下しないとできないこと」です。時間はなかなか短縮できないので、他の人にマネされるということがありません。ですから、自分の人生を棚卸しして「長く続けてきたこと」に着眼すると良いと思います。
自分のブルー・オーシャンを作る
山口:僕の場合で言うと、経営学の知識はMBAを取得しに行けば誰でも学べます。
でも、僕が学生時代から好きで学んできた哲学や歴史、人類学、心理学といった人文科学領域については30年間くらいの蓄積があるので、他の人がいまから勉強してもなかなか追いつけないわけですよね。
ですから、経営コンサルティングにおいては経営学の知識と人文科学の知識を組み合せて、自分のブルー・オーシャンを作ることができたんです。
――「好きで長く続けてきたこと」と他の知識を組み合せるといいのですね。
山口:ブルー・オーシャン戦略とは、従来の競争が激しい市場=レッドオーシャンを避けて、競合にはマネのできない独自の価値提案を行い、競争のない独自の市場を創出することを目指す戦略ですが、鍵となるのは「価値の新しい組み合わせ」です。
「新しい価値」を組み合わせるのでなく、既存の価値の「新しい組み合わせ」であることがポイントで、それぞれの要素は一流でなくてもいいのです。自分ならではのユニークな組み合わせができれば、「自分のブルー・オーシャン」を構築できて、伸び伸び働けるようになるはずです。
(※この記事は『人生の経営戦略』を元にした書き下ろしです。)