Photo:Masato Kato

定番ヒット商品「おにぎり」も
最初は大苦戦から始まった

 セブン-イレブン・ジャパンの1店舗の1日あたり平均売上高(日販)は、65万6000円で、ローソンの54万円、ファミリーマートの51万6000円を大きく上回っている(2016年2月期)。外部環境の逆風も跳ね返している。14年4月に消費税が5%から8%に引き上げられたにもかかわらず、セブン-イレブンは同年3~5月の第1四半期決算で前年同期比で2ケタの増益を記録した。同業他社は増税後、しばらく既存店売上高が前年割れを続けたが、セブン-イレブンはずっとプラスで推移した。その後も順調で、今のところ49ヵ月連続でプラスを維持している。

 第1回(記事はこちら)で述べたように、1980年代以降、日本の小売り市場は売り手市場から買い手市場に変化していった。買い手市場においては、お客さまは欲しいものしか買わない。欲しい商品が売り切れていても他の商品を代わりに買ったりはしないし、低価格だけをアピールしてもダメだ。また、ニーズは目まぐるしく変わる。昨日のお客さまが求めた商品を、今日のお客さま、明日のお客さまが必ずしも求めるとは限らない。

 問屋から仕入れたものを大量に売りさばけた売り手市場の時代とは打って変わって、猫の目のように変わっていくお客さまのニーズを汲み取り、自主マーチャンダイジングによって商品を開発していけない会社は、生き残れない時代となったのだ。

 こんな時代にあっては、過去の経験則から導き出した戦略を立てても意味がない。もっとも、私に言わせれば、そもそも変化しない世などあり得ない。1932年生まれの私が幼い頃は、少年ならば「将来はお国のために兵隊さんになりたい」と願ったものだが、敗戦によって「国民のための国」になった。活字に飢えていた時代は電波(テレビ)の時代へと変わり、さらにはネットの時代へと変貌しようとしている。

 特に戦中から戦後にかけての変化はすさまじかった。それを肌で感じてきたからか、私は「これから、世の中はどう変わるのか」という目で物事を見ることが、自分の自然な振る舞いになっているし、常に未来を見て、いま何をすべきかに考えを巡らすことが習慣となっている。

 しかし、こうした思考方法に慣れていない人は数多い。一例を挙げると、今では当たり前にどこのコンビニでも売っているおにぎりも、実は周囲の反対を押し切って開発した商品だ。売り出した当時(1978年)は、家の外で売っているのは駅弁ぐらい。お弁当といえば朝に炊いたご飯を弁当箱に詰めて、おかずは夕食の残りというのが当たり前だった。「売れるはずがない」と多くの人から言われたし、反対を押し切って発売してみても、実際に最初の頃は、1日に1店舗当たり2~3個しか売れなかった。

 だが、私には確信めいたものがあった。一つは、食堂の利用者がだんだん増えていたという事実だ。デニーズの日本展開を手がけていたこともあり、外食チェーンを利用する人が増えるという変化の兆しを見つけていた。お昼を外食で済ませるような時代が来るならば、コンビニのおにぎりやお弁当もみんなが買うようになるはず。私は、そう仮説を立てた。

 それに、おにぎりやお弁当は、日本人の誰もが食べるものだから大きな潜在需要が見込まれるし、なんといっても郷愁がある。その意味では、おでんもそうだろう。そうした商品を、よい材料を使い、徹底的に味を追究して家庭で作るものと差別化していけば、必ず支持される。そう考えて反対論を説き伏せたし、発売後は何度も何度も、リニューアルを重ねてきた。

 そんな未来への観測や仮説が、セブン-イレブンのすべての取り組みにあったし、そうした姿勢をセブン-イレブンのスタッフは創業時からずっと共有して事業を進めてきたのである。