>>(上)より続く

 信吾さんは彼の下宿先に足を運び、「娘は君のせいで地獄に落とされたにもかかわらず、早々と別の彼女を付き合い始めたそうじゃないか!君にはもはや最低限の常識、当たり前の倫理観すら欠落しているんじゃないか?」と激しく叱責した上で、まず彼の父親の連絡先を聞き出すことができたそうです。

 そして後日、父親の携帯に電話をかけると、父親は「うちの息子が迷惑をおかけして……」と低姿勢で詫び、最初は「全額払う」と言っていたのに、今度は「半分しか払わない」、さらに「払うつもりはない」という感じで、二転三転を繰り返すばかり。信吾さんは苛立ちのせいで携帯を握る手が小刻みに震えるのを抑えるのに必死だったそうです。

「もしかすると責任を感じていないのでは?費用を払うつもりはないのでは?そもそも本当は悪いと思っていないのではないか!」

 このまま電話で話し続けても埒が明かないので、「直接、話をさせていただけませんか?」と投げかけたそうです。そして父親の都合を聞き出し、予定を調整し、相手の実家に乗り込みました。

「19歳の彼はもう子ども扱いする歳ではないでしょう。避妊しなければ、娘を妊娠させる可能性があることくらい自覚していたはず。そして二股状態でうちの娘に手を出したのだから、『どうせ堕ろせばいい』と軽く考えていたんでしょう。つまり、妊娠、中絶のことを承知の上で避妊しようとしなかったという意味で、息子さんは故意犯なのではないんですか?」

 信吾さんはそうやって怒りを込めて、父親に対してまくし立てたのですが、いかんせん、直談判の会場は相手の実家で、信吾さん1人に対して、相手は父親、母親、そして祖母の3人。多勢に無勢の状態です。

「子の父ではない」と責任転嫁する彼一家
動かぬ証拠で反撃

 相手の父親はまるで自分の息子(彼)は何も悪くない、悪いのはそちら(娘さん)の方だと言わんばかりに「うちのせがれは『自分の子じゃない』と言ってるんですよ!失礼ですが、お父さん。娘さんは他の男にも平気で股を開くような子だったんじゃないですか?」と責任転嫁してきました。

 あまりにも酷い暴言に信吾さんも怒り心頭でしたが、相手方が息子大事さに、姑息な手段を講じてでも息子を守ろうとするのは想定の範囲内でした。「彼女を中絶させた過去」という人生の汚点を消したいのでしょうが、このような反論は詭弁に過ぎません。

 なぜなら、娘さんと彼が話し合い、「堕ろす」という結論に至ったとき、彼本人が「人工妊娠中絶に対する同意書」に署名していたからです。胎児は娘さんの子ですが、同時に彼の子でもあるのですから、堕胎するには双方の同意が必要です(母体保護法第14条1項1号)。