必死の表情で訴えかけた結果、相手の父親に信吾さんの気持ちが伝わったのか、逆に話が分からない相手だから「金に物を言わせた方がいい」と割り切ったのか、それとも、金を払わないと出て行ってくれないと観念したのか、最終的に相手の父親が中絶費用を全額、支払うという約束を取り付けることができ、そして後日、中絶費用の23万円が信吾さんの口座に振り込まれました。

 信吾さんがなぜ今回の請求に踏み切ったのか、2つの理由があるそうです。

 まず1つ目は子どもへの弔い。中絶手術から費用回収までの間、信吾さん家族は慌ただしく動いており、まだ水子の供養は済んでいないそう。

「加害者である彼が被害者である娘に対し、何の償いもしないなんて、亡くなった子どもに顔向けができません!」

 このまま彼がのうのうと、もう一人の彼女と付き合い、4年後には大学を卒業するようなことは我慢がならなかったと言います。

 そして2つ目は再犯の危険。彼が今回の件でしかるべき責任をとらずに逃げ切ることができたら、どうなるでしょうか?彼は両親に対して「他人の子だ」と暴言を吐いているように、信吾さんが動く前まで、彼に罪悪感は皆無だったので、反省する機会もないままにまた同じ過ちを繰り返す可能性があります。

「娘と同じような被害者が出てくる可能性が高く、指をくわえて見ているわけにはいかないと思ったんです!」

未成年者の中絶件数は1万9000件も
誰にでも起こる問題

 信吾さんは娘さんと同じような被害に遭う子が出てくることを何より防ぎたかったと言います。このように今回の件はすでに娘さん1人の問題ではなく、亡くなった子やまだ見ぬ被害者のためにも、信吾さんは使命感、正義感を駆り立てられたので、相手の不誠実な対応、卑劣なやり方、そして無責任な態度に途中で屈することなく、最後までやり抜くことができたのです。

 このように運悪く、たまたま悪い男に引っかかってしまったせいで、せっかく身ごもった子どもをあきらめざるを得なくなったという実例は多数、存在するのですが、衛生行政報告例(平成25年、厚生労働省)によると、未成年者の中絶件数は約1万9000件と決して少なくない数字です。家出を繰り返すような、不埒で不真面目な不良娘ばかりではないので、決して他人事ではありません。自分の娘が同じような被害に遭ってもおかしくはないのです。だから信吾さんと娘さんのケースを「運が悪すぎた」と軽んじ、「自分には関係ない」と目をそらすのは危険でしょう。