年末年始の帰省シーズンが到来した。近年、「帰省をやめた」「頻度を減らした」という声も少なくない。背景にあるのが、帰省にかかるコストの増加だ。インフレが続く今、「お金をかけて実家に帰る必要があるのか」と悩む人が増えている。そんな人たちの背中を押す一冊が、人生が変わると話題のベストセラー『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』だ。本書では、「お金を使わなかったこと」よりも、「得られなかった経験や思い出」のほうが、あとから大きな後悔として残る、と指摘している。(執筆:坂本実紀、企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

「帰省はお金がかかる」インフレ時代の“後悔しない帰省”の考え方Photo: Adobe Stock

帰省は、お金がかかる……

坂本実紀(さかもと・みき)
WEB&ブックライター
高知県出身の3児の母。出版社勤務を経てフリーライターへ転身し、現在は新潟市を拠点に地域情報メディアのライティングやブックライティングに携わる。恋愛コラムニストとしても活動し、これまでに受けた恋愛相談は1万人を超える。

年末年始の帰省シーズンが到来した。今年も多くの人が「実家」に帰るのだろう。一方で、今年は帰省するのをやめた、という声もよく聞く。その理由は、こうだ。

「帰省は、お金がかかる……」

たしかに、帰省にはお金がかかる。そのお金を支払ってまで実家に帰る必要があるのか? インフレでさまざまなモノの値段が上がる今、そう考える人も少なくないだろう。

私自身、帰省するとなれば家族5人分の交通費だけで20万円近くかかる。正直言うと、家計的には相当痛い。だから、年末年始は家計の事情もあって帰省は断念した。

それでも私は、夏には絶対に帰省すると決めている。毎年「最高の夏休み」を買うために、自分の仕事を調節し、子どもたちの休みに合わせて20日間ほどの自由を無理くり作り出している。

それは、私の人生で一番キラキラしている最高の思い出を生み出しているのが、確実に「夏休み」だからだ。

耐えられないほど暑い日差しの中、冷たい清流に何度も飛び込み、くたくたになった体に甘いアイスを溶かしこむけだるい夕方。夜は、友達や親戚と散歩に出かけたり、花火を楽しんで、夜更かしをするのも最高だ。

この楽しい思い出を、自分の子どもたちにも味わってもらいたい。

お金の代わりに得られるもの

しかし繰り返すが、家計的には厳しい。テレビ電話でじじばばと顔を見て話せるようになった昨今、交通費や家計の圧迫が続く中で、「帰らなくてもいいのでは」という気持ちが芽生えた時も正直あった。

目先のお金の悩みが出てくると、ついそちらをどうにかしようとばかり考えてしまう。結果として、人生の遊びの部分が減り、経験に投資することに消極的になってしまう。

そんな中、「やっぱりできるだけ帰ろう」と決めたきっかけは『DIE WITH ZERO』を読んだことだった。本書には、筆者が家族との時間を作るために、お金と時間をかけて盛大なパーティーを開くエピソードがある。

もちろん45歳は、盛大なお祝いをする特別な節目の年齢ではない。だが、50歳になるまでは待てなかった母はすでに高齢だったので、まだ元気なうちに楽しんでもらいたかったからだ(すでに父は身体が弱っていて飛行機には乗れなかったからこそ、母に参加してもらうことに意義があった)。
それに、友人たちだって年々年を取っている。全員を招待できる機会が次にいつくるかなんてわからない。私は、今が一生に一度のパーティーを開くチャンスだと直感し、それをなんとしても実現させると決心した。このパーティーを残りの人生でいつまでも記憶に残るような、忘れがたい体験にしよう、と。

――『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』より

この話を読んだ時、筆者が家族や仲間と過ごした満足げな時間の情景が浮かび、私も俄然、こんな瞬間を増やしたいと思った。

島を借り切ってのバカンスはできないが、実家で家族と過ごす時間は私にも作れる。私の祖母が子どもたちに会えるのも、生物学的な寿命を考えてあと10回未満だろう。子どもたちが一緒に帰ってくれる回数を考えたら5回前後かもしれない。両親も心臓にペースメーカーを入れていて、いつ何があるかわからない。

小学生の従弟同士が、壁もなく思い切り遊べるのもあと数年ではないか。母として、自分の子どもたちの「めちゃくちゃ楽しい夏」をプロデュースできるのは、あと数回しかないはずだ。

そう考えたとき、私の中にあった「お金もないのに」という気持ちは吹き飛んだ。代わりに、「今年は存分に楽しむぞ」という気持ちで鼻息荒く飛行機に乗り込んだ。

夏休みが終わった後、3人の子どもたちは「また、あそこの川にいこう」「今度はお父さんもあの秘密の飛び込み堤防につれていくんだ」「来年また従弟と遊びたい」と何度も繰り返し思い出を話してくれる。

明細は遅れてやってきて、翌月の家計の収支は0を下回った。だから、年末年始は帰省しないわけだが、後悔はなかった。

(本原稿は、『DIE WITH ZERO』(ビル・パーキンス著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)