これまで、家計、一般政府、民間非金融法人企業について、貯蓄と投資のバランスを見てきた(この他に、金融機関、対家計民間非営利団体があるが、貯蓄と投資のバランスに関しては大きな比重を占めていないので、ここの議論では省略している)。
ところで、国内における投資が貯蓄を超えれば経常収支は赤字になり、貯蓄が投資を超えれば経常収支は黒字になる。
その理由はつぎのとおりだ。
まず、事後的には、生産と支出は必ず等しくなければならない。ここで、生産は国内生産と輸入の和であり、支出は消費、投資、輸出からなる(消費と投資は、家計、一般政府、法人企業などによるものの和)。また、国内の純生産(生産から資本減耗を差し引いたもの)は、賃金、利潤、利子などの所得として分配される。したがって、投資として純投資(総投資から資本減耗を差し引いたもの)をとれば、
所得+輸入=消費+投資+輸出
の関係が成立する。貯蓄は所得から消費を引いたものであるから、
貯蓄-投資=輸出-輸入 (1)
の関係が成立する。これが上で述べた関係である。
日本の経常収支は1960年代以降黒字基調となった。80年代からの推移を見ると、【図表1】に示すとおりである。81年度以降は継続して黒字であり、2003年度以降3%を超える水準となり、06、07年度は4%を超える極めて高い水準になった。経済危機の影響で08年度には低下したが、それでも黒字は維持している。
経常収支の黒字が継続したのは、国内において貯蓄が投資を継続的に上回っていたことを意味している。これまで見てきたように、90年代以降、家計と一般政府では貯蓄が減少した。それにもかかわらず、経常収支の黒字が継続したのは、民間非金融法人企業部門の貯蓄と投資の差が大幅に拡大したからである。
経済危機以前の期間においては、経常収支の黒字がむしろ拡大したことに注意が必要だ。2007年度における黒字は、01年度の黒字の2.1倍にもなっている。この間における企業部門での貯蓄投資差の拡大がいかに顕著であったかが分かる。
事後的な恒等式と因果関係は別
ここでつぎの点に注意が必要だ。