野田 まったくその通り。ドラッカー自身も、自分の所説は理論ではないと言っている。「私は経済学者でもなければ、“経営の学者”でもない。自分はコンサルタント。学者には、大企業のコンサルティングなどはできっこない」と。コンサルタントに対するたいへん高いプライドを抱いていたからね。
ところで、中原君は大学の文学部出身で歴史を学んできたけれど、「どうも経済学者の言っている現実は、自分が感じる現実とは何か違っているようだ」と認識できたのは、社会人になってから?
経済学ではきちんとした歴史分析ができていない
中原 社会人なってすぐですね……。私が最近、経済学にとってよい兆候を感じているのは、ここ数年、有名な経済学者といわれる人たちの中にも「歴史が大事だ……」と言う人が出始めていることです。ただし「歴史が大事だ」と言っている割に、歴史上の出来事の比較がきちんとできていないことには疑問を感じていますが…。つまり、単に出来事の表面的事象の比較しかできていないのです。
これから起こるかもしれない出来事を予測するために、過去に起こった出来事そのものと単純に比較するだけでは、誤った結論を導いてしまう可能性が高まってしまいます。比較分析をする際に忘れていけないのは、過去の出来事が起こった理由や時代背景、その当時の人々の価値観や文化、生活様式、その出来事が与えた影響などを広範的に分析するということです。ポール・クルーグマンにしてもベン・バーナンキにしても、そういった大事な視点が欠けているのが問題なのです。
野田 たしかに……。戦前アメリカで起こったバブルと戦後日本のバブルとでは、その現実がまるっきり違うからね……。
中原 それを基本的には同じ土台で比べてしまうのが、今の経済学の問題点です。
野田 やはり、発想に現実的裏づけがないんだな。抽象的な解釈で人を“誤解”に導いていくきらいがある。
中原 経済学の中には法則や理論というものがたくさんありますが、私はそれらが正当な意味での法則や理論だと思ったことはありません。法則や理論と名づけるからには、自然科学のように「100%正しい」というものでなければならないからです。
野田 社会現象は、法則で動いていないから面白いのにねぇ……。