中原 経済学には正しい答えがないからこそ、権威が大きな力を発揮しているのでしょう。ノーベル経済学賞受賞者のような権威ある学者の言った学説が、たとえそれが間違っていたとしても、そのまま支持されていく下地が存在しているのです。だから、有名な経済学者に限って「クルーグマンによれば……」というふうな言い方をすることが多い。日本がインフレ目標の導入をしようとしたときも、そうでした。クルーグマンのインフレ期待なる理論が日本で通用することがないなど、微塵も考えていなかったわけですから。
野田 そのうち、アベノミクスに関しても、「自分たちの理論は正しいのに、国民大衆の受けとめ方に問題があった……」とでも言い出すのではないかな(笑)
中原 たしかに……。「金融政策は万能だ」と言っていたにもかかわらず、「構造改革が足りない」「消費増税が悪い」と、さまざまな理由を挙げて、他に責任を転嫁するに違いありません。彼らは、「お金の量を増やせば、デフレは解消して、景気はよくなる」と言っていたのですが、最近明らかにそれが間違いだということがわかってきましたから……。
私はアベノミクスが始まる前から、「金融政策よりも構造改革のほうが重要だ」と言い続けてきましたが、そもそも構造改革の本質は、「生産性を引き上げること」すなわち「よりよいものをより安くするということ」です。構造改革とは、インフレ目標とは相性が悪い政策なのです。
かつて「欧州の病人」と言われたドイツが今や欧州で一強と言われるまでになったのは、シュレーダー首相のときに大胆な構造改革を行ったからです。今のドイツが低インフレであるのは、生産性を高めた結果です。日本でも構造改革を本気でやろうとしたら、まず2%のインフレ目標なんかを捨て去るべきでしょう。
野田 日本の政治家たちは現実の経済をよく知った上で、議論しているのではないんだな。もっとも、名だたる経済学者やエコノミストたちも、生きて躍動している現実を知らないのかもしれないから仕方がないのかね……。とにかく、困ったもんだ。