――どのような犯罪が起きていますか。

病院内犯罪はなぜ起こる?元殺人担当刑事の“院内ポリス”に聞くよこうち・あきみつ
新宿署刑事第一課長、本庁捜査一課管理官(殺人捜査担当)として活躍、2004年3月に警視庁を定年退職。警察OBとして全国の大学病院で初めて、学校法人慈恵大学総務部渉外室室長に就任。悪質クレーマー対策、防犯活動、個人的な相談ごとへの対応(DV、ストーカー被害、借金問題など)を行い、「院内交番」の病院セキュリティー担当として各種トラブル対策を行ってきた。現在、HSS ホスピタルサポートサービス代表、慈恵大学総務部渉外室名誉顧問。

 窃盗犯(泥棒)にとって、病院は“修業の場”です。病院ほど盗みを働きやすい場所はない。病室は基本的に出入り自由ですし、どこに貴重品があるのかが一目瞭然。セーフティボックスなんて、ドライバー1本で簡単に開けられますからね。検査などでベッドから離れる時間を狙って犯行におよぶ、病院専門の窃盗犯もいます。

 一般的に、薬や医療器具の窃盗は、医療従事者、すなわち内部の人間による犯行が大半です。自殺や殺人の目的で危険薬が持ちだされる事件も起きています。大口病院の事件でも、院内の点滴が犯行に使われた疑いがありますね。

 患者や医師を狙った傷害・殺人事件も多いですよ。「医療ミスがあった」と思い込んだ精神疾患の患者に医師が射殺された事件や、入院中の男性が暴力団の組員に人違いで射殺された事件など、たくさんあります。余命を宣告されたがん患者が、自暴自棄になり、看護師らを道連れとして殺害したこともありました。

 犯罪に至らないまでも、悪質クレーマーや院内暴力の事例は、日常茶飯事です。

犯罪にはすべて前兆があるが
患者の目を見ない医師は気がつかない

――それらの犯罪に、共通点はありますか。

 犯罪にはすべて兆し、前兆があります。精神的な病を持つ人は、なんら前兆のないところから突然、犯行におよぶこともありますが、一般的な人は、必ず兆しを残しているものです。

 クレームや不満を言っているうちは、まだ凶器は持って来ません。しかし凶行におよぶ頃には、口では言わず、目で訴えるようになります。

「俺の病気治してくれよ」とか、「私の話を聞いてちょうだい、助けてよ」ってね。命や健康にかかわる場ですから、深刻度も高い。

 そこで医師なり、病院なりが上手く対応していないと、次の外来の時には凶器を持ってくる。殺意が芽生え、準備をするのです。

 そういう意味では、病院はやはり怖い。ところが、被害者になる可能性が一番高い医師が、結構、他人事なんですよ。危機感が薄い。