群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡手術等による医療事故の報告書が7月末に公表された。日本では相変わらず手術や投薬のミスなどによる医療事故の報道が絶えない。患者側の医療不信も根強く残っている。そこで、DOL編集部では、かつて陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害の再発防止に向けた市民運動に取り組む勝村久司氏に、本件に関して執筆を依頼した。同氏は厚生労働省の「医療安全対策検討ワーキンググループ」や「中央社会保険医療協議会」、日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。群馬大学附属病院の医療事故調査委員も務めている。

実は2度目の調査報告書だった
群馬大学病院の医療事故

群馬大学病院の事故でわかる日本医療の大問題写真はイメージです

 2016年7月30日、群馬大学医学部附属病院で手術後に患者が相次いで死亡した医療事故の調査報告書が公表され、大きく報道されました。

 実は、一連の事故は2014年夏から発覚しており、翌年には1度、事故調査報告書がまとめられていました。したがって、今回公表されたものは、やり直しをした2度目の事故調査報告書だったのです。

 これまでの経緯は次の通りです。

 同病院は、2010年12月から2014年6月までの間に確認された92例の腹腔鏡下肝切除術のうち、58例が保険適用外の疑いがあり、そのうちの8例が術後4ヵ月以内に亡くなっていたとして、2014年夏に最初の事故調査委員会を立ち上げました。

群馬大学病院の事故でわかる日本医療の大問題かつむら・ひさし
1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の「医療安全対策検討ワーキンググループ」や「中央社会保険医療協議会」、日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。群馬大学附属病院の医療事故調査委員にも就任した。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

 その委員会には、5名の外部委員が含まれているとされていましたが、そのうちの4名は、最初の会議に出席を依頼されたのみで、それ以降は会議に呼ばれておらず、実質的に議論に参加できていませんでした。しかも、参加を続けた残りの1名は、病院の顧問弁護士であり、とても外部委員と呼べるものではありませんでした。さらに、2015年3月にまとめられた報告書の内容を遺族に説明する際に、病院側が勝手に加筆した箇所があったことがわかるなど、事故調査のあり方自体が大きく批判され、信頼性が揺らぐこととなったのです。

 そのため、大学は、2015年8月末に、完全に外部委員だけからなる新たな事故調査委員会を設置し、調査をやり直すことを決めました。新たな委員会は6名で構成され、筆者も委員の一人となりました。

 この委員会は、1度目の委員会が対象とした腹腔鏡下肝切除術死亡8事例に加え、開腹肝切除術死亡10事例を併せた18事例の事故を対象にしました。そもそも、群馬大学の腹腔鏡による手術の事故は、千葉県立がんセンターで腹腔鏡の手術事故が多発したことがきっかけで発覚したものであり、全国的に腹腔鏡の手術の安全性が問われる事態でしたが、加えて、群馬大学では、腹腔鏡ではない通常の開腹手術でも死亡事例が相次いでいたことが発覚したための対象の拡大でした。