気づかないうちに
リスクの高い金融商品を購入
H物産は、中国から仕入れた格安の製品を、国内の卸業者に販売する輸入業を営む商社である。長引く不況を背景として高額品の販売が伸び悩む中、中国から輸入する低価格品は、かえって売上を伸ばしていた。
業績はここ数年間順調に伸び、その結果として潤沢な手元資金を確保していた。しかし、資金繰りには余裕ができたが、実質0パーセントに近い低金利が続く経済環境下、単純に銀行に預金しておいても大した利息も稼げない。
一方で、同社は従来から日々の営業資金を調達するために、銀行から借入を行っていたが、銀行からの要請もあり、余裕資金があってもなかなか借入金の残高を減らすことができないでいた。その結果、毎年の支払利息は相当な額に達しており、資金運用益の確保は同社の重要課題であった。
そんな折、財務部長のK氏は、証券会社から、円建てでありながら金利が3%以上となる高利回りの債券を紹介された。債券は5年後の一括償還で、信用格付けはAクラスに相当しており、統計的には貸し倒れのリスクは十分に低いものと判断された。
証券会社の担当者の説明によれば、この金融商品は、高度な金融工学を利用して組成された優れ物で、倒産リスクを低く抑えながら、高利回りが確保できるように工夫されているという。
どうやら、円ドルの為替レートが1ドル90円を超えて円高ドル安となると、元本の償還額が50%に減額されるとのことであったが、為替レートも1ドル120円程度で安定しており、90円という円高の到来は全く懸念されていなかった。倒産リスクが低いにもかかわらず高利回りであるというメリットに比較すれば、そのようなリスクは取るに足りないものであるように感じられた。