不正融資疑惑の発覚
I興産は、九州地方に拠点を構える、中堅の金融会社である。そのI興産が、不正融資疑惑に揺れていた。
複数の社員が、与信先の信用状況調査に手心を加えて、貸付先の返済能力を超えた貸付を行っている、という内部通報があったのである。最近の地域経済の停滞もあり、I興産の多くの貸付先の財務体質は、ぜい弱化していた。そのような事情を考慮し、I興産では6ヵ月までの期間の返済滞留に関しては、管理担当者の申請があれば、特に厳しい取り立てを行わなくて構わないというルールになっていた。
つまり、管理担当者の申請があれば、6ヵ月間以内の返済滞留は実質的に許容されていたのである。そして、この制度を悪用することで、疑惑対象となった複数の社員は、自分たちの担当する融資先に関して、信用状況調査を甘くして融資先を増やすとともに、返済の滞留期間が6ヵ月を超過しそうになると、そのような問題貸付先の滞留を隠蔽し、問題の発覚を逃れることに成功したのだ。
手口としては、返済の滞留が生じていない優良な貸付先の同意を取り付けたうえで、優良な貸付先が返済した資金を、問題貸付先経由で返済させることにより、表面上、問題貸付先からの返済があったかのように偽装する。これによって、問題貸付先の返済滞留を一時的に消し去ったのである。
その際、一時的には、操作に協力した優良貸付先側で返済滞留が生じたように見えるが、その後、数ヵ月以内に、その返済滞留金額にいくらかの謝礼が上乗せされた金額が、問題貸付先から優良貸付先へ弁済されることにより、その滞留状況は解消されることとなっていたのである。
デジタルフォレンジックの効果
不正融資疑惑の内部通報を受けて、内部監査チームによる分析調査が始まった。その分析調査の結果、これらの疑惑社員が担当する貸付先の返済滞留期間は、他の貸付先の滞留期間よりも明らかに悪化していた。