派遣された取締役の悲劇
なんで私がこんなことに!?

 日本企業Xが米国の会社を買収し、人事担当役員Sを当該米国会社の取締役として派遣した。派遣された取締役の担当業務は工場の生産管理であり、役員室を含め勤務先は工場内にあった。この日本人役員は毎日工場を視察するのが日課となっていたが、ふとある若い女性のことが気がかりになる。

 その女性は工場で働いている一従業員で、比較的重労働を担当していた。日々視察を繰り返しているうちに、その女性のお腹のあたりが徐々にではあるが、膨らんできたのが目にとまった。

 心の優しい役員は当該従業員が妊娠している可能性を懸念し、現在の業務がお腹の子どもに適さないことを理解した上で、何らかの対処をしなければならないと判断した。そこで当該従業員を役員室に呼び、緊急措置として業務の軽い他の職場への異動を告げようとした。この際、以下のような状況が発生した。

・就業時間中に当該従業員に呼び出しをかけたため、多くの従業員が役員に呼び出されたことを知っている。

・呼び出しの理由は役員秘書も聞いていない。

・役員室まで当該従業員が来たが、中に入りたがらず、役員が中から手招きし、従業員がやっと入室した後、役員がドアを閉めようとした際、従業員が嫌がるのを役員秘書が目撃していた。

・役員としては、妊娠の件もあり、他人に聞かれては従業員がかわいそうとの配慮からドアを閉めたつもりだが、当該従業員の体は強ばり、役員が応接セットのソファに座るよう促しても座ろうとしない。

・やむを得ず、役員が従業員の肩にさわりながら、ソファに誘導した。

・役員も座り、おもむろに当該従業員に対して、妊娠していること、今の業務は重労働で健康を害する可能性のあること、結婚の有無や子どもの父のことなどを問いただした。

・その上で、当該従業員にその気があれば、もっと楽な業務に異動が可能であることを告げた。