前回は、自分にあったゴールを定めて、そのゴールに対する進捗状況で管理すべきで、ベンチマークに対する勝敗はゴールの達成とはあまり関係がないというお話をしました。投資経験のあるオヤジ世代の皆さんの多くは、自分の資産形成を評価する際に投資信託のベンチマーク対比の勝敗を気にしているかもしれませんが、東証株価指数(以下、TOPIX)に勝っていてもTOPIX自体のリターンが悪ければ資産は増えておらず、資産形成は順調とは言えないですよね。この“ベンチマーク対比の勝敗”は資産運用の常識の中で、私がおかしいと思っていることの一つなのですが、実はおかしいのはこれだけではありません。「コストが低い=良い」という風潮もおかしいと思います。

 そこで今回は、デフレ・マインドの染みついた日本人が陥りやすい“コスト優先神話”について問題提起したいと思います。

その(1):安い食材からおいしい料理がつくれるのか?

 雑誌やネットで投資信託に関するアドバイスを調べると、特に確定拠出年金を中心に、多くの人が「コストが低い=良い」、つまり「パッシブ運用(インデックス運用*)がアクティブ運用よりも良い」と主張しています。もちろんクオリティが同じものならばコストが安いに越したことはありませんが、実際はどうなのでしょうか?

 ここで、レストランにたとえて考えてみましょう。料理人は食材の目利き能力がありますので、同じクオリティのものの中から極力安いコストのものを探すことができます。また料理の腕もありますので、たとえコスト優先で食材のクオリティが高くなくても、相応のクオリティの料理をつくることができます。

 次に料理のスキルがない一般人が食材を仕入れる場合を考えてみましょう。まずクオリティを見極めるだけの目利き能力がないので、低コストを最優先して食材を選んでしまう人も多いと思います。安い魚、安い肉、安い野菜… 結果として料理人よりもコストを抑えて食材を入手できるかもしれません。でも、その安い食材でうまく料理ができるのでしょうか? 料理人であればクオリティの低い食材からクオリティの高い料理をつくることができるかもしれませんが、一般人には難しいですよね。

 この“たとえ”に関しては、多くの方が同意されると思います。では、これを資産運用に当てはめてみたらどうでしょうか? まず目利き能力は、おそらく一般の投資家で自分に適した投資信託をしっかり選べる人は少数だと思います。したがって、料理と同様、わからないからとりあえず一番安いもの、という流れで多くの投資家がパッシブ運用を選んでいると思われます。それでも、上手に組み合わせるスキルがあれば、腕の良い料理人と同様、クオリティの高い運用ができるでしょう。でも残念ながらどの資産にどの程度投資すべきかを理論的に考えられる一般の投資家はやはり少数です。結果として、“安い食材から構成されたおいしくない料理”のような内容の運用をしている人が多いと思われます。

*TOPIXのような指数と同じリターンを目指す運用