我が子にキラリと光るものを見つけても、そこから大きく能力を成長させるにはどうしたらいいのか。つい私たちは、お金をかけて英才教育を受けさせることを想像しがちだが、ピアニスト・辻井伸行さんの母・いつ子さんによると、もっと身近な心がけで、才能を大きく伸ばすことができるという。連載第2回目では、その秘訣を聞いてみた。(「辻」は一点しんにょう、以下同)

ピアノレッスンよりも重視した「外からの刺激」

辻井さんのピアノは「色彩感覚が豊か」と賞されるようになりました(写真はイメージです)

「今日の風は、なに色なの?」

 我が子、伸行がこう尋ねた日のことを、私は昨日のことのように覚えています。まだ、伸行が保育園児だった頃のことです。

 連載の第1回の記事でも言及しましたが、私は伸行に視覚障害があるからといって悲観的にならずに、伸行が伸行らしく生きていけるように、ポジティブな子育てをしようと心がけていました。光を感じることができなくても、周囲の様子は耳で聴くことができるし、体全体で外界からの刺激を受け取ることができる。伸行なりに世界を感じて、豊かな心を養ってほしいと願いました。

 そのため、「心を育てる」ことは、ある意味ピアノのレッスンよりも、ずっと重要視していました。積極的に外出し、「本物」に触れさせることにしたのです。

 子どもの頃から、キャンプやスキーに出かけては、大自然の中で様々な感覚を総動員して刺激を受けました。

 「水の音がきれいだね」
 「風が気持ちいいね」
 「木の葉のささやきが素敵に聞こえるね」

 その都度、伸行はこんな感想を話してくれました。

 色を教えるのもその一つでした。どうせ目が見えないのだから、とあきらめるのではなく、私たちの暮らしの中にある美しい色を教えたかったのです。例えば春、桜並木を歩いている時に、頬の上にそっと舞い落ちる花びらが、こんなにもきれいな淡いピンク色をしていると知れば、どんなに世界が広がることでしょう。そのため、花見に花火、紅葉、雪山など、季節ごとに家族で遊びに行き、私の言葉でその情景、そして色を伝えました。