現在、経営再建の途上にあることから明るい話題が少ない日本板硝子グループで、異彩を放っている子会社がある。1934年(昭和9年)に創業されたカガミクリスタルは、今では日本の皇室が認めた最高級のクリスタルガラスを製造する唯一の存在である。だが、近年は、手探りで老舗ブランドのリブランディング(再構築)に取り組む。最近では、宝塚歌劇にオリジナル製品を提案して採用されるなど、独自の試みを推進する望月英俊社長に問題意識などを聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――2017年1月1日より、日本を代表するエンターテインメント企業の1つである宝塚歌劇(タカラヅカ)と、事実上の“皇室御用達”であるカガミクリスタルがコラボレーションしたクリスタルガラス製品が発売されるそうですが、どのようなものになるのですか。

カガミクリスタル、“皇室御用達”という仕事のリアルもちずき・ひでとし
1959年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本板硝子に入社。主に営業畑を歩む。2002年、特機材料事業部の営業部長に就任。この時代に、化粧品市場向けの量産ビジネス(ガラスベースの顔料)を立ち上げる。同時に、世界4拠点で展開する子会社・NGF社の経営に携わる。07年に津事業所の企画管理部長に転じた後、09年に中国の子会社・蘇州板硝子有限公司の総経理。13年4月、子会社・カガクミクリスタルの社長に就任する。Photo by Shinichi Yokoyama

 最初に1点だけ。まず、宝塚歌劇には、コラボレーションという言葉は存在しません。正確に言いますと、1913年(大正2年)の創設以来、たくさんの人々を魅了してきたタカラヅカに対し、日本で屈指のクリスタルガラス・メーカーの私たちが新製品の提案をしたところ、それが採用されたという図式です。

 残念ながら、現在は最終的な詰めの段階にあることから、写真などの画像でお見せできないのですが、カガミクリスタルが持っているデザイン、色付け、カッティング、仕上げの加工など、すべての技術・能力を投じています。

 最初に世に出る製品は、宝塚歌劇の5つの組、すなわち花(はな)、月(つき)、雪(ゆき)、星(ほし)、宙(そら)のイメージをデザインに落とし込んだ「5色の冷酒杯」になります。販売されるのは、兵庫県宝塚市にある宝塚大劇場のショップのみとなります。自分が交渉の直接当事者だったからではありませんが、各組別に異なる側面や底面の仕上げなどはうっとりするほど美しいです。

――親会社の日本板硝子は、経営再建中であり、業績もぱっとしません。望月社長は、2013年にカガミクリスタルの社長に転じて以来、東京・銀座のコリドー街そばのショップをリニューアルしたり、ホームページを継続的に刷新したり、次々に新しいことを始めています。なぜ、そうしているのですか。

 はい。私は、それまで日本板硝子の営業マンとしてB2Bの専門的な分野にどっぷり浸かっていましたので、カガミクリスタルというB2B2CもしくはB2Cの世界には無縁でした。しかも、製品はほとんど芸術の領域です。