旅というものは実にすばらしい。新しいことを学び、新しい場所を訪れ、新しい人々に出会うチャンスだ。つい先頃も、シベリアのアルタイ山脈にラフティングをしに行って来たばかりで、とにかく圧倒的な体験だった(そこで目にした自然の驚異についてはブログeugene.kaspersky.co.jpで紹介するのでご関心のある向きはご覧いただきたい)。
とはいえ、大半のすばらしいものがそうであるように、旅にも欠点はある。慣れ親しんだ生活習慣や居心地の良い環境から離れなければならないし、空の旅はストレスになるし、観光客や外国からの訪問者に狙いを絞った犯罪も実に数多く起こっている。
私はかなり旅慣れている方だと自負している。1年に平均100回ほど飛行機に乗っているし、移動続きの生活の利点も難点もよく知っている。世界はますますコンピューター化が進み、人々がデジタル世界に残す痕跡はここ10年から20年にかけて急速に増えつつある。
弊社が実施したアンケート調査で、18%もの回答者が、海外旅行中にサイバー犯罪に起因する問題に遭遇したことがあると答えたほどだ。この数字は、海外旅行中にデジタルではない物理的な(たとえば所持品や身体に対する)犯罪に遭遇したことがある人の割合の3倍にも上るという。
インターネットアクセスや携帯通信ネットワークを利用できない原野をさすらう旅をしばらく楽しんだ人でも、たいがい最後には人里離れた場所にある小さなカフェに入り、(安全でないかもしれない)無線ネットワークにログインし、そしてそこで結局、型どおりの観光旅行をした場合と変わらないリスクに直面することになる。
要するに、危険にさらされない人はいないのだ。そこで今回は、海外に出かける際のデジタルセキュリティに関する心得をお伝えしようと思う。
心得その1:
デビットカードを1枚余分に持ち
現地通貨の現金も携帯する
孫子の兵法の書には、「最大の勝利は、戦わずして勝つこと」とある。遠くの土地へ旅する人に置き換えてみれば、「最もましな犯罪被害は、無視できる程度の損失で済むこと」となるだろうか。
たとえば、海外滞在中は、普段使っているクレジットカードやデビットカードを使うことが安全なのかどうかさえ確信が持てないことが多い。見知らぬ土地のレストランのウェイターが(こういうことは減ってきてはいるが)カードを客の見えないところに持って行って勘定の支払い処理のためにスキャンしたり、怪しげに見えるPOS(販売時点情報管理)端末に挿入したりするかもしれない。
ATMやPOS端末にカードスキミング装置が仕掛けられていても、簡単には発覚しない。ATM自体をスキミング装置にしてしまうサイバー犯罪も起きている。ATMに感染して、ATM利用客の認証情報が機械に収集されるようにするのだ。感染したATMとそうでないATMを見分けることは不可能だ。
そこで、ごく少額の残高を入れたデビットカードを1枚余分に持ち、カードが悪用される危険が通常より高そうなときだけそのカードを使うことをお勧めする。たとえば、ごく小さな商店やレストランに行ったときや、夜間に暗がりにあるATMを使用するときなど…。それから私は、現地通貨の現金も少し持ち歩くようにしている。銀行カードでの支払いを受け付けていないところもたくさんあるからだ。