投資家目線に立った
金融庁発の面白い読み物

 どんな文書であっても、書き手に伝えたいことがあって、書き手自身の言葉で書かれた文書は読んでいて楽しい。金融庁が先月発表した「金融行政方針(平成28事務年度版)」は、官庁の文書には珍しく、書き手が何かを伝えたがっていることが伝わってくる文書だ。

 9月に発表された「金融レポート(平成27事務年度版)」もそうであったが、「金融行政方針」でも、金融庁が、もっぱら金融システムの健全性と金融業界の発展にだけ重点を置いた従来の政策方針から、金融業の顧客の視点に立つ方向に転換しようとする姿勢が伝わってくる。

 これは、投資家、もっと広く金融機関の顧客の側である国民にとって、大変好ましい変化だ。

 それでは、金融機関の監督官庁である金融庁が、これから何をしようとしていて、それが金融機関の顧客である個人にとってどのような意味を持つことになりそうなのかを検討してみよう。

 金融ビジネスの顧客、特に投資家の目線で今回の金融行政方針を読むと、まず目につくのが、リスク資産への投資促進に向けた金融庁の積極性だ。投資の中でも、特に「長期」「積立」「分散投資」の三点を強調しており、文章を読むと、運用会社のセミナー資料を読んでいるような錯覚を覚えるほどだ。

 具体的な施策としては、「積立NISA」と称する制度を導入しようとしている。(1)節税可能枠が毎月5万円(年間60万円)と通常のNISAの半額である代わりに、(2)積立投資に向いた商品を金融庁が指定して積立投資を行う前提で、(3)節税可能な投資期間を20年とするものだ。

 若い会社員などの資産形成を考えた場合に、積立投資が手がけやすく、毎月5万円程度までの金額が現実的だとの考えによるものだろうが、積立投資で、長期投資をすることが好ましいのだという、独特の投資教育の意思が感じられる。