いよいよ日本時間の11月9日に迫った、米大統領選の投開票日。投票日の2日前、今回の選挙の大激戦地の1つ、ネバダ州のラスベガスで、ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプ陣営の「最後の戦い」を見極めるべく、筆者は取材を開始した。現在のアメリカという国を象徴するかのような人々の「熱狂」ぶりを、現地から日本の読者にお伝えしたい。(取材・文・撮影/ジャーナリスト 長野美穂)
白人はトランプ、有色人種はヒラリー
職場の中も「大統領選一色」
空港に降り立ったその瞬間から、ネバダ州民たちが「トランプ対クリントン」の票取り合戦で、「分断」よりさらに深刻な状況に追い込まれていることを思い知らされた。空港レンタカーのカウンターで車を借り、大統領選の取材で来たことを伝えると、カウンターの向こうに立っているナジームという名の男性は、急に前のめりになった。そして、他の職員に聞こえないように、そっと小声で囁いた。
「この営業所では、白人の社員はほぼ全員がすでにトランプに期日前投票し、自分を含め有色人種の社員は全員ヒラリーに投票済みだ。僕はアメリカに移住して18年経つけど、ここまで人種間ではっきり投票結果が分かれているのは初めて経験するよ。職場が完全に真っ二つに分かれている。毎日、ものすごいストレスだよ」
パキスタンから移民したという彼が小声になったのは、労組のない職場では誰に投票したかによって、ボスからの扱いや仕事の評価すら変わる可能性があり、多くの職員が報復を恐れているからだという。
こんな緊迫した空気は、筆者が住む民主党の牙城であるカリフォルニア州の職場ではまずない。車を借りると、ラスベガス北部の街にある南ネバダカレッジに向かった。歌手のビヨンセよりも集客力が高いと言われている助っ人、バーニー・サンダース上院議員が、クリントン支援演説に駆けつけたからだ。
「バーニー! バーニー!」
数百人集まった観衆が声を上げる。黒、青、白と色とりどりのバーニーTシャツを着ている老若男女。彼らが手に持っているのは、ヒラリー陣営が配った「Stronger Together」という青いサインだ。
ネバダ州は、全米の中でもヒスパニック系の投票率が急激に伸びている州の筆頭だ。同州で2012年の大統領選に投票した全てのヒスパニック系の票の数を、今回、ネバダで期日前投票を済ませたヒスパニック票数が抜いたのだ。
そんな1人、メキシコ系のホゼ・マシアス(27歳)は、50歳の母が脳梗塞で亡くなった日のことを忘れられないと言う。
「母は違法移民であることがバレてしまうのを恐れて、発作が起きても救急車を呼ばなかった」