トランプ氏当選の可能性は
完全に排除できない
11月8日、米国大統領選挙の投票日を控え、トランプ、クリントン両候補の討論会などが注目されている。討論会は政策に関する議論よりも両者の中傷合戦になっており、有権者の評判はかなり悪いようだ。
一つ言えることは、どちらの候補者が勝っても保護主義的な通商政策が進む可能性が高く、世界経済にとってマイナスになることが懸念される。特に、トランプ氏が大統領になった暁には、かなり明確な米国中心主義になると見られる。
IMFやWTOが世界の貿易量が減少傾向にあると指摘する中、各国の主要企業の業績も低迷気味だ。世界的に供給能力が需要を上回る状況が続いており、多くの国が自国産業の保護などを重視する傾向になっている。その極端な例が自由貿易協定などを真っ向から批判するトランプ候補だ。
金融市場では、トランプ候補が勝利すれば、世界の貿易協定の枠組みが毀損され、経済活動に混乱が生じるとの懸念が強い。第1回の討論会後、カナダドルやメキシコペソが急騰したのは、トランプ氏の劣勢を受けて過度な保護主義への懸念が低下したからだ。
ただ、選挙には想定外の結果がつきものであり、トランプ氏当選の可能性を完全に排除することはできない。同氏の度重なる暴言、スキャンダル、そして共和党首脳部からの決別宣言がなされた中でも、トランプ候補は一定の支持を得ている。そこには、政治家は経済の低迷による社会の閉塞感を打破できないという民衆の不満がある。
経済のグローバル化が進み、企業が生産拠点を海外に移すにつれ、先進国内の雇用は増えづらい。その結果、民主主義を支える基盤である中流階級は遠心分離器にかけられたかのように、下層に向かう大多数と、一握りの上層階級に分かれる。経済格差が広がり、多くの民衆は既成政治に不満を向け始め、「自国第一」の世論が高まる。
世界的に保護主義的な傾向が強まると、多くの資源を輸入に頼るわが国は厳しい状況に直面する。かつての1920~30年代の世界恐慌の時にも、自国優先の保護主義的な通商政策が世界に広まった。米国の大統領選挙を境に、徐々にそうした状況が進む可能性が懸念される。