そのアファーマティブアクションの投票の際、しかし、彼は筆者にこう述べた。

「私はこれ以上のアファーマティブアクションは必要ないと思っているよ。もうカリフォルニアはマイノリティに十分なアドバンテージを与えてきたと思う。実際うちの学生の多くはもうマイノリティだ。彼らは実は2極に分かれている。成績がとても優秀なグループと、落第寸前のグループだ。優秀なグループの人々は切磋琢磨して、チャンスをものにしている。落第寸前のグループの学生は、悪いが、どうひいき目にみても、努力していない。マイノリティでいることに甘えて、優遇されて当然だと思っているように見える。だから、私は「反対」に投票するつもりだ」

 そしてこう付け加えた。

「まあ当然このことは、あからさまには言えないよ。政治的に正しくないからね。でも、日本人であるモトキにこのことを話すのは、私が決して偏見をもっているわけではないからだということわかってほしい」

 彼は筆者以外には本音を明かさず、黙って「反対」の票をいれた。「政治的正しさ」の呪縛は、すでにこのころからアメリカにあったのだ。

「本音」のデータは
ネット掲示板にある!?

 今回の選挙でのトランプ支持者に、この作用が働いたことは想像に難くない。トランプ氏の過激な物言いは、彼らの「本音」に訴えたのだろう。

 トランプ氏の主張は「政治的に正しくない」ものが多い。例えば、氏の主張するイスラム教徒の入国制限は、善良なイスラム教徒に対する「統計的差別」であり、政治的に正しくない。だが、テロ対策として「合理的な効用」があると思わせる側面もあるのだ。それが有権者の「本音」に訴えかける。

 そして、筆者が思うに、ネイト・シルバー氏の予測技術が間違っていたわけではない。彼が元にしたデータが間違っていたのだ。彼の選挙予測アルゴリズムの詳細はもちろん公開されていないが、世論調査や出口調査のデータを使っていることは間違いないだろう。それらのデータが有権者の本音を反映していなければ、いくら優れたアルゴリズムを使っても、正確な予測はできない。

 アメリカ人の「本音と建前」の強固さが、この予測が外れたことによって間接的に暴かれたのだと筆者は考えている。

 シルバー氏は、実はイギリスのEU離脱についても、予測を外している。これも「本音と建前」が作用する案件だ。

 EU加盟によって、ヨーロッパから職と社会保障と高いポンドを求めて、多くの移民が入り、病院診察は数か月待ち、家賃は高騰し、社会保障費が膨れ上がった。移民受け入れは人道的にも政治的にも正しい。だからそれによる弊害を声高に叫ぶことは、はばかられるのだ。シルバー氏の予測が外れたのは、アメリカ大統領選と同じメカニズムによるものだと考えられる。

 シルバー氏は、今回の失敗を踏まえて、すでに新しいアルゴリズムの開発に着手していることだろう。

 そのカギは「本音」のデータを探すことである。今回、インドの人工知能「Mogla」が、トランプ当選を予測していたというニュースがあった。この人工知能の詳細は不明だが、興味深いことにインターネットからデータを収集しているという。

 匿名で本音を吐けるネット上の掲示板では、誹謗中傷が飛び交い、多くの問題を起こしている。だが、今回のようなケースでは、そういった場だからこそ「正確なデータ」が得られる可能性がある。ネットを侮ってはいけないのだとつくづく考えさせられる事例だ。