成毛 『娘道成寺』で舞の由来を説明する「舞尽くし」のところも自由ですね。

おくだ そうやって自由な部分がある一方で、しっかり守られている部分もある。だから長く続いているのでしょう。

『仮名手本忠臣蔵』は
お上に逆らう反骨の話

成毛 反骨的な部分も感じますね。『仮名手本忠臣蔵』は明らかに赤穂浪士、つまりお上に逆らう話です。

おくだ・けんたろう
歌舞伎ソムリエ。1965年名古屋市生まれ。大学入学で上京後、1年半のアメリカ生活を経て歌舞伎に熱中。歌舞伎座の立ち見席に通いつめ、イヤホンガイドの従業員を経て解説担当者となる。NHK教育テレビでの歌舞伎の入門番組や東工大世界文明センターなどで講師を歴任。ミラノ スカラ座の来日公演などではオペラの字幕も経験。http://okken.jp/ Photo by K.S.

おくだ だからそのままではまずいだろうということで、設定は太平記ということにして、登場人物の名前も実在の人物からは変えています。ただ、浅野内匠頭を塩冶判官高定として、吉良上野介を高師直としているのですが、主役の大石内蔵助は大星由良之助という、誰が聞いてもすぐわかるような名前になっています。

成毛 たぶん、作家はげらげら笑いながら書いていたのでしょうね。

おくだ 本当にまずいと思っていたら、すべて変えるでしょうからね。

成毛 特に歌舞伎は武士ではなく町人に支持されてきたものですから、それくらいの冒険は必要でしょう。私はスルガ銀行の社外取締役をしていますが、このスルガ銀行も反骨心の塊のような銀行です。ある時期に当時の大蔵省が「地銀は都道府県に一行まで」と合併を促したときにそれに従いませんでした。今、静岡に静岡銀行とスルガ銀行があるのにはそういう理由があるのですが、つっぱねた以上は存続させなければと、個人客を一生懸命に相手にしているうちに、個人から支持される銀行になりました。

おくだ ただお上の言うことを聞いているだけでは、ショウビジネスも成り立ちません。