【必読ポイント!】
◆思索的内省
◇アルゴリズムから内省へ移行する

 私たちの意思決定は、アルゴリズムだけによって導かれるのではなく、経験の蓄えられた内面世界を意識的に旅することによって行われる。

 利用できる無限とも思える量の情報から、とくに重要だと判断した要素についてだけ思索し、重要でないものは放っておく。熟考のあらゆる段階で、自分の目的と方法について思索し、心のなかをどうさまようかについて思案する。これが「思索的内省」の真髄であり、この能力こそが人間の自由意志を構成している。

 もちろん、私たちの決断は、内省だけでもたらされるわけではない。脳、すなわちアルゴリズムは、たしかに私たちの自由意志に影響を与えている。それは事実だ。だが、たとえ決断をするうえでの最初の一歩がアルゴリズムによってもたらされているのだとしても、最後の一歩はやはり内省なのである。

◇ソマティック・マーカー仮説

 研究者のアントニオ・ダマシオが提唱したソマティック・マーカー仮説は、アルゴリズムから内省への移行を説明する有力な仮説だ。これによると、私たちが何かを経験するたび、それに関連するなんらかの感情または身体症状が生じる。その感情は神経系に刻みつけられ、その出来事と記憶を結びつけられて、ソマティック・マーク(身体的標識)として残る。

 ソマティック・マーカーは、本人が気づいていないときでも意思決定に影響する可能性がある。公平な心で決断を下していると思っても、実際には無意識のバイアスがたくさんかかっているし、プラス面とマイナス面を純粋に比較したと思っていても、そもそも比較のやり方がソマティック・マーカーの働きによって偏っている。

 だが、ソマティック・マーカー仮説は、私たちの将来がアルゴリズムで決定していることを意味しない。たしかにこれらのマーカーは私たちのすることをある程度コントロールするが、それだけではない。ソマティック・マーカーはあくまで影響をおよぼすだけで、最終的な決断を下すのは意識のある自己である。すなわち、意志の力には厳しい制限がかけられているが、それでも最終的な発言権はあるということだ。

 ソマティック・マーカーは、知覚的な刺激と、過去の情動や記憶・意識的な経験のあいだをつなげる。そして、その連携は、脳内の前頭葉が担っている。これに似て脳は、まず知覚や経験のデータ処理をアルゴリズムとして行いながら、内省的な思索へと移行していくのではないか。だからこそ、アルゴリズムで解釈できなかったものが、その重要性をじっくり検討できる脳のシステム、すなわち意識のある行為主体に移されるのである。