テレビでも話題の脳科学者で『努力不要論』などベストセラーを連発する中野信子さんと、世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper」の元開発リーダーで初著書『ゼロイチ』を出した林要さんによる対談が実現した。会社のなかで「出る杭」がなぜ叩かれるのか?なぜ、他人の「足」を引っ張る人がいるのか?そして、その「風圧」を和らげるにはどうすればいいのか?脳科学的に解き明かされる(構成:前田浩弥、写真:榊智朗)
「出る杭」だからこそ、チャンスは訪れる!?
中野信子さん(以下、中野) 『ゼロイチ』を拝読しました。「0」から「1」を生み出す、つまり、イノベーションをテーマにした本は、起業家や研究者によるものが多いですが、林さんのご本は、サラリーマンとしてゼロイチを実現する方法を追求している点で独自性があり、「組織人の悩み」もにじんでいてとてもおもしろかったです。特に、『「出る杭」だから引き抜かれる』という一節が響きました。
林要さん(以下、林) ありがとうございます。よく、「どうすれば、林さんのようにゼロイチのキャリアをつくれるのか?」と聞かれるんです。それで、よく言うのが「出る杭だから引き抜かれる」んじゃないかって話なんです。
僕は、トヨタがF1に参戦したときからF1にチャレンジしたいと希望してたんですが、英語がまったくできなかったので「応募資格」すらなかったのに、あるとき突然「F1に行かないか?」と打診があったんです。
中野 「応募資格もないのに、なぜ?」ってびっくりしますよね?
林 ええ。真相がわかったのは数年経ってから。実は、F1の前にやっていた仕事でひとりの役員の激怒を買ったことがあるんです。その方の専門分野の領域に、何の実績のない僕のような若造が手を突っ込んで「常識はずれ」な設計をやったので、「お前は何をやってんだ!!」と逆鱗に触れた。そこで、一歩引けばいいものを、僕は、クソ真面目に「いえ、こうすべきです」と反論し続けたんです。
中野 それで玉砕?(笑)
林 はい(笑)。だけど、それが、記憶に残っていたらしくて、F1チームから「人材を寄こしてほしい」という要請を受けたときに、「学究肌のエンジニアと、英語はからっきしだけど元気なエンジニアとどっちがいい?」と、その役員が僕の名前を出してくれたらしいんです。
中野 まさに、「出る杭」だから引き抜かれたってわけですね?
林 そういうことですね。でも、これって会社のなかでゼロイチのチャンスをつかむためには重要なポイントだと思うんです。ゼロイチって成功するかどうか未知数ですよね?だから、上層部は「そんなきわどい案件には、生命力のある、きわどいヤツを当てておけ」と、“毒をもって毒を制する”という感じで判断をするケースが多いと思うんです。
中野 あはは、そうかもしれませんね。林さんは、役員の激怒を買っても、自分で考え抜いて「これだ!」というアイデアをストレートにぶつけた。だから、「出る杭」になって叩かれたけれど、引き抜かれもした、と。だけど、会社というコミュニティのなかで、はっきりと自分の意見を表明するのは勇気がいりますよね?
林 そうですね。でも、中野先生ほどじゃないかな、と(笑)。『努力不要論』を拝読して、歯に衣着せぬ表現がとても気持ちよかったです。多くの研究者さんの文章は、正確性を期するために断定を避ける表現が多いんですよね。「○○の場合には、△△の可能性があるかもしれない」とか「○○のようなことが示唆されます」というように。でも、中野さんの文章は言い切っていて素晴らしかった。
中野 ありがとうございます。歯に衣を着せなさすぎて、怒られてしまう部分もありますが……(笑)。
林 まさに、「出る杭」ですね?(笑)。ただ、会社というコミュニティのなかで「出る杭」になると当然、風圧も強くなります。あれに耐えられるかどうかも、重要なポイントですね。