ノエビアの新商品「ノエビア バイオサイン インナートリートメント」。「後に使う化粧品との馴染みがいい」「バイオ技術の集大成」というあたりがミソか?

 長引く景気低迷により、自衛のための「節約志向」は、幅広い年齢層にすっかり定着した感がある。その一方で、昨年くらいから「節約疲れ」という言葉もマスメディアに登場するようになってきた。

 極めて緩やかではあるものの、景況感の上向きも反映し、消費意欲を抑えるのに疲れた消費者が、サイフのヒモを緩めつつあるというのだ。事実かどうかは議論が分かれるところだが、このほど、こうした傾向を反映していると思われる調査データが発表された。

 日本フードサービス協会が発表した「2010年 外食産業市場動向調査」によると、ファーストフード、ファミリーレストラン、パブ・居酒屋、ディナーレストランなど、外食産業における全業態のトータルの年間売り上げは、対前年度100.5%と、2年ぶりに前年度を上回った。

 2010年後半に回復傾向が顕著になったというが、注目すべきは、この時期の特徴が「客単価の向上」であるということだ。この調査によると、年後半、ディナーレストランでも客単価が100.7%と回復傾向を示しているという。

 長きにわたり、「低価格競争」に明け暮れてきた外食業界だが、ここに来て、日本マクドナルドなどが「高級路線」の店舗を出すなど、新たな方向に舵を取り始めている。日本フードサービス協会の調査結果は、こうした「新戦略」の必要性を裏打ちするデータであるとも思われる。

 こうした「節約疲れ」傾向の現れに活路を見出そうとしているのは、外食産業だけではない。特に、女性をターゲットにした業界が新戦略に打って出ている。その1つとして、今回は化粧品業界の動きを紹介したい。

 ノエビアが新たに立ち上げたエイジング・ケアのブランド「バイオサイン」のアイテムとして1月25日に発売した美容液「インナートリートメント」は、1万8900円(税込み)と、ドラッグストア・コスメに慣れた人にとって、かなりの高価格だ。さらには、カネボウ化粧品、ポーラなども、高級路線のスキンケア商品の発売を予定している。

 化粧品市場は、ここ数年、低価格商品と高価格商品が売れ、本来量販が見込まれる中価格帯(2000円~5000円)の商品群が苦戦するという「二極化」傾向が指摘されている。そんな中で、今回各社が投入した商品は、単に「価格が高い」「高級」のみが売りではなく、「ワケあり」を強調しているところがミソ。

 たとえば、ノエビアが発売する美容液は、同社発表によると「商品自体のスキンケア効果だけでなく、手持ちの化粧品の効果も最大限に引き出せる」とのこと。いわば同社は、「この価格であれば、お得感がある」という消費者に認識させることが販売拡大の要であるようだ。同様に、他社の商品に関しても、「最先端の美白技術」「独自開発の技術」などなど、価格の「裏づけ」が強調されている。

 すなわち、こうした商品が投入される背景には、「節約疲れ」の後に来る「賢い消費」を取り込もうというプロダクト側の意図が見える。「節約」すなわち、消費意欲を抑えることに慣れた消費者は、おそらくそう簡単には「高価格」に飛びつくことはないだろう。購入行動の前提には、「この価格で、この商品なら、払ってもいい」という「賢い判断」が必要なのだ。

 「節約疲れ需要」を消費行動に結びつけ、「嫌・消費」を「賢・消費」に転換させることができるのか? 消費財を扱う各業界・各企業にとって、「腕の見せどころ」といったところだろうか。

(梅村千恵)