東日本大震災や熊本地震、そして鳥取中部地震、国内では大規模震災はいつどこで起きてもおかしくない災害となった。海外に目を向ければ、テロ事件は後を絶たず、難民問題など多くの国際問題を抱えたままである。そのような状況下において、国際化、多極化を推進している企業は、グローバルサプライチェーンのリスクとどのように向き合えばよいのだろうか。

渡邊 浩彰
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

国内シンクタンク系コンサルティングファームを経て、現在に至る。製造業を中心とした幅広い業種に対し、サプライチェーンマネジメント関連の業務設計やITシステム構築におけるプロジェクトマネジメントを中心に戦略立案からオペレーション定着化までのプロジェクトに数多く携わる。

 内閣府の調査(2016年3月、「平成 27 年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」)によると、大企業のうちBCP(Business continuity plan:事業継続計画)を策定済みである企業は60%を超え、策定中の企業も含めると約80%に達する。熊本地震や鳥取中部地震の影響を考慮すると、BCPの取り組みはさらに進むと考えられる。

 しかし、策定したBCPは本当に有効なものになっているだろうか。規定やマニュアルを揃えることが目的化している節はないだろうか。

 筆者はそこに多くの企業がリスクマネジメントに対する考え方を見直す必要があると感じている。

 リスクマネジメントが、企業の生き残りをかけた経営戦略の視点で検討され、コアビジネスの競争力強化を導く手法として認識されているかという点に着目したい。

サプライチェーン・リスクとは何か

 PwCがMIT(マサチューセッツ工科大学)と共同で実施したサプライチェーンマネジメントとリスクマネジメントに関する調査によると、企業が直面しているサプライチェーン上のリスクは図1に挙げられる。

 原料価格変動、為替価格変動、市場変化、エネルギー価格変動といったリスクは、発生頻度の定量化は難しいものの発生する可能性は予測でき、ある程度統制可能なリスクであると言える。

 一方で、自然災害や地政学的リスクはそのインパクトの大きさから見逃せないという認識が見て取れる。それぞれのリスクの統制方法は、業種やサプライチェーン特性などによって様々であるが、重要な事はリスクを認識する手段と対応方法が適切かということである。つまり、リスクを把握する範囲が不十分ではないか、リスクへの対応が局所的になっていないか問題提起したい。

 筆者が日々クライアントと接しているなかで、総じて日本企業が十分に取り組めていない課題は2つあると感じている。(1)テクノロジーを活用したグローバルリスクマネジメントと、(2)数値管理に基づく経営戦略との連携である。