直前に「もうお金もない。もう生きられへんのやで」「すまん、ごめんなさい」と泣きながら母親に声をかけたと言う。

 京都地裁は執行猶予付きの「温情判決」を下したが、長男は8年後に琵琶湖に投身自殺した。

目を引く男性加害者の多さ

 マスコミの関心も高まり、殺人を犯した当事者への取材が始まった。毎日新聞は大阪本社版で2015年12月から翌年6月まで連載企画「介護家族」を掲載、11月にはその取材経過を含めて単行本「介護殺人――追い詰められた家族の告白」としてまとめた。

 読売新聞は12月5日から「孤絶・家族内事件」の連載を始め、加害者10人の証言を報じた。同紙の調べでは、2013年1月から今年の8月までに要介護高齢者への殺人(未遂を含む)や心中、傷害致死などは179事件あり、死亡者189人を特定したという。

 なかでも、NHKテレビが7月に放映した「私は家族を殺した――『介護殺人』当事者たちの告白」は大きな反響を呼んだ。心境を吐露した4人の当事者の姿に「他人ごととは思えない」との声がネット上で飛び交った。

 この6年間に未遂を含め138件の事件が起き、「2週間に1人の割合で殺人」とのナレーションが流れた。

 こうした家族介護者による殺人行為の約7割は男性が加害者である。日本福祉大学の湯原悦子准教授が過去18年間に起きた事件を調べた結果だという。全国で716件の事件が起き、男性加害者がそのうち512件、72%に達した。厚労省の調査では家族介護者の約7割が女性であることから、加害者比率で男性の多さが目を引く。

 人生の大半を仕事人間として生きてきた男性には生活感が乏しく、突然の介護を引き受けると対処法に戸惑う。介護は思い通りに行かない孤独な作業でもある。仕事とは勝手が違う。

 隣近所や地域との付き合いがある女性には身近な話し相手がいるが、男性はそれがないため一人で抱え込んでしまいがち。自活している子どもたちにも「余計な心配をかけたくない」という思いから。打ち明けないケースが多い。