リーマンショック後に米国の力が相対的に低下し、資金の逃避先として円に注目が集まった結果、日本経済はかつてない円高に苦しんでいる。しかし、日本における格付けのパイオニアとして知られる三國事務所の三國陽夫代表取締役は、円高を恐れるあまり円安誘導を行ない、貿易黒字を拡大させることこそが、日本経済を停滞させる根本的な原因だと指摘する。円高は日本経済にとってむしろよい兆候であり、日本企業の成長を促すきっかけにもなる――。円高をネガティブに捉えがちな企業関係者のなかには、この話をにわかに信じられない人もいるかもしれない。しかし、長きに渡って日本経済を第一線から分析し続けてきた三國氏の持論は、多くの示唆に富んでいる。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

みくに・あきお/株式会社三國事務所代表取締役。1939年生まれ。新潟県出身。東京大学卒業。元経済同友会副代表幹事、CFA協会認定証券アナリスト。野村證券を経て、75年に三國事務所を設立。日本における格付けのパイオニアとして活躍し、現在はエコノミストとして活動する。近著に『黒字亡国~対米黒字が日本経済を殺す』『円デフレ~日本が陥った政策の罠』(共著)『Japan’s Policy Trap』(共著)『円の総決算』などがある。

――リーマンショックで米国の力が相対的に低下し、資金の逃避先として円に注目が集まった結果、日本経済はかつてない円高に苦しんでいる。2007年夏に1ドル=120円台だった円は、今や80円台で高止まりしている。そんななか三國氏は、日本が円高を恐れて円安誘導を行なうことこそが、日本経済を停滞させる根本的な原因だと主張してきた。これはどういうことか?

 自著『黒字亡国』でも指摘したが、日本は長らく輸出が輸入を上回る「貿易黒字」の状態が続いてきた。この「黒字」とは、企業が輸出で得た売掛金に当たり、本来なら銀行を通じて為替市場で円に換金されて決済されるものだ。

 しかし、外貨を円に交換すると円高になってしまうため、それを恐れる日本は貿易黒字を外貨の形で大量に持ち続けてきた。2009年末の日本の対外純資産は266兆円にも上る。このやり方は、ドルが金の裏付けを失い、1973年に世界が変動相場制へ移行したときからずっと続いている。

外貨を大量に保有することは、他国に
おカネを貸して国内のおカネが回らなくなること

 ドルなど外貨を保有することは、米国をはじめとする他国におカネを貸すことに他ならない。海外に持っていった分だけ国内銀行の手元流動性が失われてしまう。黒字を溜め込むと、本来日本に戻ってくるはずのおカネが戻ってこない、別の言い方をすればおカネが回らない状況が続き、結果として国内の経済活動が抑制される。

 企業活動でたとえるなら、売り上げを立てて売掛金を大量に保有する会社が、現金を回収できずに黒字倒産の危機に直面しているのと同じだ。