バイオベンチャーの淘汰が、いよいよ本格化しそうだ。

 昨年から、ベンチャーキャピタル(VC)が、創薬系のバイオベンチャー向けの投資を、引き揚げにかかっている。近い将来に上場が見込めないベンチャーに対して、自社株を買い戻させるなど、資金回収を急いでいる。

 創薬系ベンチャーのエムズサイエンスは昨年11月、開発中だった抗ガン剤事業を、タカラバイオに売却した。しかし数億円の売却代金を自らの事業資金に充てることなく、今年1月末にファンドから自社株を買い戻した。現在、手元に残った開発中のクスリについては、提携先を探して交渉を続けているが、まとまらなければ事業存続は危うい。

 同社はVCからのプレッシャーを否定するものの、「数十社に上るVCから、株を買い戻すようそうとう強い要望があった」(関係者)模様である。

 これほどVCが焦るのには訳がある。彼らが組成したファンドの多くが、満期を間近に控えているためだ。

 今から10余年前、創薬系バイオベンチャーが次々に設立された。当時、VCはファンドを通じて、こぞってベンチャーに投資した。その際に取得したベンチャーの株式は、上場時に数倍の儲けとして返ってくる目論見だった。

 しかし多くの場合、この投資シナリオはもろくも崩れ去った。

 今年、上場が見えているのは、ジャスダックグロースに上場が承認されたラクオリア創薬のほか、シンバイオ製薬やカイオム・バイオサイエンスなど、ごくわずかだ。

 そもそも、クスリの候補物質が、製品化までこぎ着ける確率は、1万分の1以下にすぎない。しかも、安全性や有効性を確認する臨床試験が始まれば、運転資金も含めて2年間で20億円以上は必要だ。

 だが、いつまでも儲けが出ないベンチャーに追加でカネを出すところはない。すると、ベンチャーは臨床試験を進められない、という悪循環にはまっている。

 ファンドは一般的に、満期が10年、延長で2年という設定だ。そして、多くのファンドが今、満期を迎えようとしている。このため、VCは上場の見込みがないベンチャーに対しては、損切り覚悟で回収に走っているのだ。

 オンコリスファーマのように、浦田泰生社長自らも自社株買いを迫られた直後、昨年12月に米ブリストル・マイヤーズスクイブとの提携で一発逆転を決めたベンチャーもある。ただし、これは例外中の例外だ。

「自社株を買い戻せる資金をつくれるのは、まだ余裕があるほう」(ファンド関係者)で、それすらままならないベンチャーが多いという。VCからの資金回収の圧力が強まり、ベンチャーの苦境はいっそう深刻さを増しそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

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