過去10年間の財務体質改善に集中した経営を経て、伊藤忠商事は今、反転攻勢に出る。かつて非財閥系商社ゆえの強みといわれた「強い営業力」も「自由闊達な社風」も失いかけている。岡藤正広社長の危機感は深い。管理主義がはびこる社内では権限が分散され、意思決定スピードも落ちている。「営業が主軸の現場主義」への原点回帰はなるか。岡藤改革の内実を追う。(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)

「私が社長になっていちばんショックだったのは、証券アナリストから『今の伊藤忠は、住友商事よりも元気がない』と言われたことです」──。

 昨年4月の社長就任から3ヵ月近く経過した6月下旬、岡藤正広社長は、社内のイントラネットを通じて、全社員にこう訴えかけた。

 売上高10兆3067億円(2009年度)で業界2位の伊藤忠商事に比べ、売上高7兆7671億円で業界4位の住商は見劣りする。一方、当期利益は住商が1551億円を稼ぎ出しているのに対し、伊藤忠は1281億円と後塵を拝している。

 だが、岡藤社長が嘆いているのは財務数字の優劣が理由ではない。37年前、就職活動の際に、住商にも興味を持ち、会社を訪問した。ところが、「カラーシャツや幅広ネクタイはダメ」と人事担当者に言われ、官僚的なイメージを抱いて敬遠した。翻って、伊藤忠を選んだのは、自由闊達な社風に魅せられたからだ。

 ところが、いまや伊藤忠は住商より元気がないと外部の目に映っている。岡藤社長にとって大きな衝撃だった。「なんとしても自分が、伊藤忠を変えなければいけない、という思いを再確認した」ほど我慢ならぬ現実だった。

 住商といえば、昨年、住商の歴史で最大額の約1700億円を投資し、ブラジルの資源大手ウジミナス社から鉄鉱石鉱山の権益の一部を取得したばかりだ。こうした積極的な投資が、市場に好意的に評価されている。

 総合商社6社の実力を比較した、右のレーダーチャートを見ていただきたい。「株価変動を除いた固定資産の伸び」は、近年の投資がどのくらい価値を生んでいるかを見る指標である。住商が業界1位であるのに対し、伊藤忠は業界5位。その投資姿勢の差は一目瞭然である。