その方にとっては、僕たちの心を伝える、ほんのちょっとした言葉が、抗がん剤や手術以上に必要だったのですね。

 僕が名誉院長を務めている諏訪中央病院には、都会の病院で冷たい言葉を投げかけられ、見捨てられたような気持で転院してこられた患者さんが常時、40人も50人も入院しています。

 僕は、そういう患者さんやご家族を、なんとかエンパワーできないかなと意識して診療に当たっています。薬よりも効果を発揮するのは、「心」です。温かい信頼関係の中で、心を言葉で伝えることによって、患者さんは自分の人生を振り返り、人生を肯定的に捉え直したり、ご家族との関係や僕等医療従事者との関係もよくなったりすることができる。言葉には、人と人との関係をとりもってくれる力もありますよね。

 今回選んだのは、僕自身悩みながら、胸の内で10年20年かけて発酵してきた言葉が中心です。中には、ニーチェの「脱皮しない蛇は滅びる」など、有名な言葉もいくつか取り上げました。

 各々の人生の中にいる人たちに向けて、それぞれ違う形で影響を与えられたらいいなと思いながら、最終的には124になっていました。

――元プロ野球選手の清原和博さんに向けた言葉も書かれていますね。

「『ダメな自分』を認めたところから、自分革命は起きる」――。

 あれは清原君に向けたのと同時に、現在さまざまな「依存症」で苦しんでいる大勢の方々に向けた言葉でもあります。日本人は、アルコール依存症やギャンブル依存症、セックス依存症など、依存症に罹っている人がものすごく多い。

 遊行を生きるとは、自分自身に厳しくすることではなく、快感を欲する自分も含めて、ダメな自分や弱い自分を否定する心からもっと自由になることです。素直に弱さを認め、「助けてください」と言える人なら、アルコールやギャンブルに溺れなくても済むかもしれない。それが言えないために苦悩を抱え込み、麻薬やアルコールに逃避するのではないでしょうか。

 依存症は快感に溺れ、快感から脱出できなくなる病気ですが、僕は、快感は悪ではなく、もっと上手に使えば人生が面白くなるし、社会も明るくなると考えています。

 これからの社会は少し、躁状態になったほうがいい。そのためには、社会を構成する僕たち一人ひとりがもっと躁状態にならないといけませんから、快感というのはそんなに悪いものではないはずです。ただし、快感だけが先行してしまったら、身を滅ぼすことは目に見えている。
 快感を健康的に楽しめるコツが「遊行」なのだと僕は思います。