トランプ米大統領が就任し、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱の大統領令に署名するなど、米国第一主義を前面に打ち出している。日本はトランプ大統領とどう付き合っていけばいいのか、世界はどこに向かうのか。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、竹田孝洋)
──トランプ米大統領が1月20日に就任演説に臨みました。
従来、大統領就任式の演説は理念に満ちていましたが、今回は平易な言葉を使い、選挙中に述べていたことの凝縮に尽きたようです。最も違和感を覚えたのは、米国の世界におけるリーダーシップ。米国は世界で唯一の超大国であり、第2次世界大戦後、民主主義・資本主義体制の構築を先導してきました。
米国がリーダーシップを取り、世界の秩序を安定させることが、米国の利益になるというのがこれまでの米国の考え方でした。だから、就任演説は国内向けといえども世界に向けたリーダーシップを感じさせるものだったのです。ところが、トランプ大統領の就任演説では「アメリカファースト(米国第一主義)」のみが目立ち、米国のリーダーシップより、目の前の米国の利益が損なわれてはいけないことを強調しています。
トランプ大統領が一貫して述べてきた課題は貿易でした。「雇用の確保」も「再び強いアメリカにする」という主張も、その根底にあるのは貿易。TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を最初に発表しました。
──トランプ大統領は米国の雇用を増加させるために、メキシコや中国からの輸入品に関税をかけ、輸入を減らすとしていますが、米国は完全雇用に近い状態です。
確かに、1980年代は米国の失業率が10%を超え、日本からの輸入車が増えたことで、米国の自動車産業の雇用が失われたという議論はありました。でも今は失業率は5%を切っています。
トランプ大統領は国内投資拡大と減税、規制緩和を進めていくようです。米国株も上がりますし、米国にカネが集まる。投資が増えれば、結果的に雇用が増えるでしょう。でも貿易赤字を減らして雇用を増やすというのは、短絡的で現実離れしています。