かつて「鉄の街」として栄えたペンシルベニア州ピッツバーグは「ラストベルト」の代表で、1970年代からの10年間で15万人が失業した。現在、製鉄所の跡地には高層ビルや住宅が立ち並んでいる

 1月20日、第45代米大統領にドナルド・トランプ氏が就任した。もとよりその過激で理不尽な発言で支持者を減らしつつあるトランプ氏だが、この新政権の見どころといえば「製造業の行方」がその1つである。

 トランプ氏が公約として掲げたのが、米国内における製造業の復活と雇用の確保だ。目下、トランプ大統領はメキシコに進出した自動車工場を米本土に回帰させることに躍起だが、いずれその目は中国に向けられるだろう。

 トランプ新政権の通商チームは対中強硬路線の人事で固められているが、中でも通商政策の司令塔といわれる「国家通商会議」のトップに就いたピーター・ナヴァロ氏は常々、近年の中国の増長を批判してきたことで知られる。「中国が工場と労働者を奪った」とし、同氏自らが監督したドキュメンタリー映画『Death By China』で「米国の繁栄には強い製造業と雇用創出を取り戻す」と力説する。

「ラストベルト」化は
中国のせいではない

 ワシントン駐在経験のある丸紅中国有限公司の鈴木貴元氏は、「トランプ氏はかなり本気で米国に従来型の製造業を戻そうとしています。ラストベルト(錆びた工業地帯)に雇用を、と考えているのがトランプ氏です」と話す。

 米国の北東部から中部にかけて、「ラストベルト」と呼ばれるかつて繁栄した工業地帯がある。鉄の街ピッツバーグは19世紀から1950年代にかけて米国最大の工業都市の1つとなったが、1960年代をピークに衰退した。2005年、工場跡地はピッツバーグ市だけでも1万4000ヵ所にのぼるとも言われる。

 70~80年代、ピッツバーグは工業から商業への大胆な構造転換への道を選択する。製鉄所の跡地には高層ビルやショッピングセンターが建設され、ウォーターフロントには住宅が立ち並ぶようになった。その一方で1970年代からの10年間で15万人が失業した。