NHKの単独インタビューに答える、松井秀喜選手。 |
大リーグ、ワールドシリーズの激戦の翌日、MVPに輝いた松井秀喜選手は、NHKの単独インタビューに応えた。大リーグ挑戦7年目にしてつかんだ栄冠、奇跡ともいえる大活躍に、本人は「こんな素晴らしいことが起こるなんて、想像ができなかった」と語った。
大リーグのワールド・チャンピオンという夢を追い求めてきた松井選手。しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。選手生命を脅かした左手首の骨折。相次ぐ両膝の手術。思うようにプレーできない松井選手に対して、今シーズンは地元メディアから「不要論」が噴出し、契約の打ち切りが噂された。
「壁が高ければ高いほど、どうやって越えようかと、もがき苦しむ。僕の中ではそれが魅力なのかもしれない」
そう語った松井選手。いくつもの苦境をどのように乗り越えてきたのか。球史に名を刻んだ松井秀喜選手の活躍に迫った。
松井選手が激白。
MVPを決めた運命の一振り
ワールドシリーズの第6戦。ヤンキースが優勝に王手をかけた一戦。後がないフィリーズは、通算219勝の大投手、ペドロ・マルティネス投手にすべてを託していた。しかし、そのエースを完璧に打ち崩し、ヤンキースに栄冠をもたらした松井選手。シリーズのヒーローに観客席からMVPコールが沸き上がった。奇跡とよべる大活躍。そこにはシリーズでのある打席が伏線となっていた。
舞台はまず、シリーズの第2戦。この日の先発もマルティネス投手。低めに変化球を集め、毎回三振を奪う力投を見せていた。実は、松井選手はこのマルティネス投手を大の苦手としていた。過去のレギュラーシーズンでの対戦成績は1割4分3厘と、太刀打ちできていなかったのだ。
しかし、この日は違った。同点で迎えた6回、松井選手の打席。マルティネス投手は2球続けてインコースのストレートで簡単に追い込んだ。NHK大リーグ解説の高橋直樹さんは「バッテリーの思惑通りの攻めだった」と分析。「あとはチェンジアップを投げれば、内野ゴロかポップフライだという印象はあったと思いますね」と語った。マルティネス投手にとって、立ち上がりは順調に思えた。
宿敵・マルティネス投手との対決の様子を振り返る松井選手。 |
そして、マルティネス投手は変化球で仕留めにかかる。だが、松井選手はこれをファールでしのぐ。「非常にいいアウトコースのカーブをうまくカットして逃げられた」と振り返った松井選手。変化球への対応に自信を持った松井選手と、それに気づかなかったマルティネス投手。運命の一球はインコースの膝下へ落ちる変化球だった。マルティネス投手自信の一球を松井選手は見事にスタンドまで運んだ。「もともと低めは好きなんですけど、自分の一番いいスインで対応できた」と語った松井選手。変化球なら打ち取れると踏んでいたマルティネス投手に、大きな衝撃を与えた一打だった。
そして、MVPをきめた第6戦の第1打席。再び先発したマルティネス投手、今度はストレート中心に攻めてきたが、勝負はすでに決まっていたようなものだった。「自分自身、状態がいいという認識はあった」と松井選手。積極的に打ちに出る松井選手は、かつての天敵をじりじりと追い詰めた。
マルティネス投手が攻めに苦しむ中で投げたのは、甘く入ったストレート。松井選手は、快音とともにスタンド2階席に叩き込んだ。敗れたフィリーズのマニエル監督は「松井選手はどんなボールも対応してきた。強打者を調子に乗せてしまった」と松井選手のバッティングに舌を巻いた。