当然、警察は報復に出かねない親分を徹底マークする。身動きがとりづらくなる一方だが、警察の殺しの捜査は遅々として進まない。殺しに手を染めなかったことをヤクザの誇りとしてきた親分だが、葛藤しながら「関根殺し」を決断する。関根夫妻の身勝手な犯行におののくと同時に、暴排条例もない時代だけに、ヤクザを敵に回すってことがどれほど恐いか痛感する。

「埼玉愛犬家殺人事件、水面下で進行していたまさかの暗殺計画」と聞くと本格ノンフィクション風だが、思わず「むむむ」と唸ってしまう記述も少なくない。

チャクラが覚醒している
と言われても…

「連絡がとれなくなった時、私は真っ先に関根を疑ったが、誰も信じなかった」とあるが、確かに巨漢で荒々しいだろうヤクザを一般人が殺せるとは思えない。なぜ、親分はわかったのか。自身も関根からトラやらライオンを購入したことがあるなど面識があり、出会った当初からきな臭いと感じていたらしいが、最大の理由は「チャクラが覚醒した者のみが見える眼で関根の犯行がわかったのだ」という。いきなり冒頭で「座禅と瞑想を続けたおかげで、チャクラが覚醒している」と言われても、リアクションに困るではないか。

 確かに、本書の中に出てくる親分の写真は座禅姿ばかり。親分のホームページを見てみたら、なぜか「7徳の武王・織田信長」という同じタイトルの記事に溢れており、住所と携帯電話の番号まで公開している。個人情報を保護する気はゼロというか、むしろ積極的に公開している姿はまさに親分の中の親分。挙げ句の果てに、「『任侠の報告』愈々、明日発売されます」って、親分の本のタイトルは『仁義の報復』。漢字に挟まれた「の」以外、まるで違うのだが小さいことは気にしていたらヤクザ稼業はつとまらない。

 瞑想ならぬ迷走の懸念を読み手に抱かせるも、警察とヤクザのやり取りや被疑者に司法取引を持ちかける検事など日本の闇もぶちまけているところは必見。かすかに漂うトンデモ系の臭いは好き嫌いが分かれそうだが、事件ノンフィクション好きとしては絶対に読むべき一冊だろう。

ヤクザすら手にかけた埼玉愛犬家殺人事件の凄惨

(HONZ 栗下直也)