「分散効果」が働かない、
奇妙な日本のマーケット
日本人にとって価格変動リスクがある金融資産は「日本株」と「外貨建て資産(株式・債券)」に大別できるが、現在のように為替と株価が連動する状況には、それぞれの資産に何が起きるだろうか?
整理すると次のようになる。
円安のとき
・外貨建て資産 → ドル高になり値上がり
・日本株 → 円安で企業業績が改善し値上がり
円高のとき
・外貨建て資産 → ドル安になり値下がり
・日本株 → 円高で企業業績が悪化し値下がり
このとおり、日本株と外貨建て資産は、リターンの相関性がかなり高い。より単純化して言えば、日本株が儲かるときには外貨建て資産も儲かる構造になっているということだ。為替と株価が連動していると、こういうことが起きてくる。
なお、外貨建て資産のなかでも、たとえば株式と債券とではリスク/リターンの構造がまったく異なるので、あくまでも為替リスクによる価格変動だけを考慮したシンプルな議論だという点には注意いただく必要がある。ただし、足元では世界的な低金利環境が長期化しているため、外貨建て債券のリターンの大部分が為替の値動き左右されているというのもまた事実だ。
ファイナンス理論の初歩を学んだ経験がある人は、これが異常な事態だということに気づくだろう。伝統的な金融理論の枠組みで言えば、値動きが異なる複数の資産に投資すれば、互いのリスクが打ち消し合われて、安定的なリターンが得られるようになる。これが現代ポートフォリオ理論で言う分散効果だ。
保険会社のように長期的な資産運用計画が必要になる場合は、必ず複数の金融資産に分散投資(これを「ポートフォリオを組む」と言う)しながら資金を運用するのが常識だ。
しかし、現在の日本の金融市場では、リスク資産である日本株と外貨建て資産とのあいだに期待されているほどの分散効果が働かない。両者が似通ったリスク/リターン構造を持ってしまっているためだ。この状況下では、資産運用の伝統的な枠組みは、もはやワークしなくなってくる。
このようにマーケットが歪んだ状況下では、投資家が見ておくべきなのは、(1)これからの方向性が「円安→株高」「円高→株安」のどちらなのかと、(2)その方向性がいつ変わるのかの2つだけである。投資リターンを決める要素はそれだけだからだ。
アベノミクス相場がはじまった経緯を見れば明白だ。為替の方向性は日本銀行や米FRBの金融政策で決まり、それが投資リターンを左右している。このあまりにもシンプルな構図が、現在の日本のマーケットでは続いているのである。