「異常」だからこそ儲けやすい

すでに述べたとおり、私はこの現状を「日本経済が正常化するまでの過渡期」と位置づけている。この過渡期は、本来であればもっと早く終わっているはずだった。アベノミクス発動による日銀の政策レジームチェンジが起きて以来、2013年から日本経済はかなりの復調を見せていたが、2014年に一つの「致命的な愚策」が打たれたことで、今日に至るまでインフレ率は低迷し続けているからである。

しかし周知のとおり、日銀は2%のインフレを政策目標とする姿勢を依然として崩していない。これが実現されるまでは、ドル円の動きに応じて日本株が上下する現状が続くだろう。つまり、この過渡期がいくつかの障害により引き延ばされ、長期化しているというのが真相なのである。これは日本経済にとっては不幸なことだったが、純粋に投資家目線で見れば、それだけ投資機会が増えたと言うこともできるだろう。

「政府と日本銀行が目標とする2%の安定的なインフレは2020年にかけて実現する」と私は予想している。2%インフレが実現してしまえば、それ以降は前述の図式はもはや役に立たなくなるだろう。まず、日本銀行はインフレが行き過ぎないよう金融引き締めに転じるため、経済政策と金融市場の関係はより複雑になる。

そうなれば、2000年代前半以降のように、為替レートに連動して日本株が動くとは限らない。日本株と外貨建て資産の相関性が薄れれば、本来の異なるアセットクラス間での分散効果が発揮される。経済の正常化とともに、資産運用の伝統的なフレームワークも復活するということだ。

ただ、そのときまでは「政策次第で為替レートが動き、為替レート次第で株価が動く」というきわめてシンプルな状況は変わらない。大切なのはその枠組みを頭に入れておき、そこから外れたアナリストの珍説やメディアの煽りに右往左往しないことである。

[通説]「どれだけ円安が続こうと、やはり株価は先行き不透明」
【真相】否。為替・株価は2020年まで「連動」が続く。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。