「小ざさ」との運命を感じた瞬間

―― 最初に原稿を読んだときの印象は?

寺田 実は渋谷の喫茶店で原稿を初めて読みました。

 本書の160ページに、先代のお父様が年初の元旦に病院で亡くなられて、ご自宅に戻ってこられるシーンがあります。その先代のお棺に向かって著者のお母様(先代の奥様)がひと言、「ご苦労さま」と言ったんです。

 そこを読んだとき、「なんで、自分の夫に対して、『ご苦労さま』と言ったんだろう?」と思った次の瞬間、「それだけ“背負うもの”が大きかったんだな」と、目頭が熱くなりました。

 著者は19歳のときに、当時屋台の「小ざさ」で働き始めました。当時はお団子だけ売っていたんです。

半世紀以上、小ざさを支えてきた手。食べるものをとらえてはなさない味は、この手から生み出される。

 1951年11月19日が「小ざさ」の創業日。この日は、生年は大きく違いますが、奇しくも私の誕生日と同じなんです。戦後の焼け野原の時代に家族16人を背負って、屋台に365日休みなく1日12時間、北風とお客様の視線にさらされる――このプロローグのエピソードを読んだとき、「背負う」ということがどんなことか、考え込んでしまいました。

 僕自身、この本のおかげで仕事に対する姿勢が大きく変わりました。著者や先代の“背中”に接することができたので、少しだけ強くなれた気がします。