異例の2作が大賞に選ばれた今回の城山三郎経済小説大賞。その一作、『黄土の疾風』の著者、深井律夫さんは過去2度最終選考まで残り、「三度目の正直」で大賞を獲得した実力派です。その著者に3年に亘って付き添った編集者・佐藤和子さんにとっても今回の受賞は感慨深かったでしょう。早速お話を伺いました。
荒削りだけど魅力的な作品。
誰もがそう思いました。
――最初にこの小説の粗筋から教えてください。
佐藤 日本と中国の農業問題がテーマになっています。そこに中国政府の腐敗や日本の飲料メーカーの統合劇や、欧州のファンドの買収劇が絡んで来ます。主人公は日中の農業危機を克服するために投資ファンドを設立した日本人の青年です。日中の架け橋になるよう活躍する主人公がとても魅力的に描かれています。
――この小説は城山三郎経済小説大賞受賞作ですが、佐藤さんに担当が決まったのは?
佐藤 著者の深井律夫さんは第一回城山三郎経済小説大賞に応募されました。そのタイトルは『不易と流行』というものでした。それは深井さんが初めて書いた小説だったそうですが、荒削りながらとても勢いがあって魅力的な作品でした。題材はこの時も中国が舞台でした。
深井さんは大学時代から中国語を勉強し、その後、中国の大学にも留学し、就職先の銀行でも上海支店に長くいたという方です。そういう経歴の方なのですが、原稿を読んでみて中国通の銀行マンとして、本当に中国のことを伝えたいという思いがほとばしっていると感じました。
『不易と流行』は小説の完成度という面では決して高くはなかったのですが、それでも最終選考に残り、そこでもかなり高く評価されていました。その時の担当が私だったんです。
――その担当はどういう経緯で決まりました?
佐藤 私が手を挙げて担当になったと記憶しています。作品が魅力的でしたし、私も中国ものが好きだったからです。
――中国が好きだったというのは初耳ですが、中国史?
佐藤 元々、私の母が中国の旧満州生まれだったんです。13か14歳のときに日本に戻ってきたそうです。そういうのを母から聞かされていたので、受賞作の参考資料の一つでもある『流れる星は生きている』とか、『アカシヤの大連』など中国にいた人が書いた小説などはよく読んでいました。