人生で「背負う」ことの意味を伝えたい

―― 著者はどんな方ですか?

寺田 「小ざさ」は、著者のお父様である先代の伊神照男氏がつくったお店で、今年で満60歳を迎えます。

先代の伊神照男氏をとらえた貴重な一枚。

 先代は、戦前戦後、日本の動乱期を満州や日本の各地ですごし、露天商やその他数々のビジネスを立ち上げた「起業家」でした。

 この先代の“背中”と著者の“生き様”に見える連続性――技術と精神の伝承――それがカッコいい。同じ日本人で、こんな身近にすごい人がいることを、いち早く読者に伝えたかったのです。

 著者は表紙の写真のように、実に上品で穏やかな方です。それが、羊羹づくりがスタートすると、一変! とても話しかけられる状態ではなくなります。凛とした佇まい――そこには言葉はいりません。ただただ背中が雄弁に語ってくれます。

 2代目である著者は、先代の教え、味を守り続けます。変えるべきものと絶対変えないものをきっちり分け、時代の安易なやり方に流されない。その姿はとても勉強になりました。

 著者は19歳の頃、毎日12時間、北風吹き荒れるなかでも、当時の屋台の店に立ち続けました。しかも365日休みなく! こうして培った技術はやはり本物ですし、その人間性には強く惹かれるんです。

 いま日本では、核家族化が進み、おじいちゃんおばあちゃん世代を知らない人が多いですね。昔の人の技術や生き様がきちんと継承されずに、“世代間断絶”が起こっています。

カラー口絵より。穏やかなカバー写真とは裏腹に、言葉をかけられないくらい真剣なまなざしで鍋に向かう稲垣社長。

 稲垣社長の佇まいをじかに見て、「いま伝えなくて、いつ伝えるんだ?」という危機感が猛烈に湧き上がってきました。

 本書を通じて、20代、30代の若い世代に、日本人独自の財産を継承していく素晴らしさを実感してほしいと思っています。だからこそあえて、ビジネス書に収まらない見せ方を心がけたのです。