無添加ソーセージとも違う
濃い肉の味

大木式ソーセージは「濃い肉の味」がする

 茹で上がったソーセージを味見する。大木式は日本のソーセージの原点。その味に強い個性があるわけではない。けれど、大手製品の味が〈ソーセージの味〉だとすると、大木式は濃い肉の味がする。いわゆる無添加ソーセージとも違う味だ。

「大木式ソーセージは冷めると皮に皺が寄っちゃうんですよ」と市原さんは言う。「肉って焼いてから置いておくと縮みますよね。そういう肉の性質が残っているんです」

 以前、あるハム・ソーセージメーカーからこんな話を聞いたことがある。消費者からの要望で化学調味料を抜いたところ、今度は「まずくなった」というクレームが寄せられた、というのだ。日本人の舌は化学調味料や酵母エキスといったストレートな旨味に慣らされていて、本来の味を忘れがちなのかもしれない。

ベーコンは燻製のいい香りがした

 大木式ソーセージは味わいが深い。ベーコンは外側に燻製の香りがきちんと残り、しっとりとしたハムは脂の甘味が口に残る。一つひとつが誠実な味には、日本人が歩んできた道のりがそのまま重なる。

 商工会の伊藤さんは大木式復刻の意義と狙いをこう語る。

「手作りなので少し高価。だから、普段使いのものにはならないかもしれない。でも、これは商工会の意見ではなく、個人的な考えだけれど、私は爆発的に売れなくてもいいって言ったらおかしいけど、そういうものじゃないと思っているんです。短期的に売れるということよりも、ソーセージの歴史を味として、きちんと残していくことのほうがずっと大事。それはこの町にしかないものだから」

商工会には当時の資料がまとめられている

 商工会の入り口には大木市蔵関連の書籍だけではなく、明治から昭和にかけてのソーセージの歴史に関する資料が展示されている。

 地域資源の再発見は町にも影響をもたらした。横芝光町産業振興課の伊藤泰成さんは大木式ハム・ソーセージを「特産品としての位置づけ」と語る。「食肉センターの長い歴史もありますし、この町には昔は各家で副業として養豚業をやっていたという歴史がある。養豚の文化を残していく意味でも、意義がある」

 大木式のハム・ソーセージは地元の学校給食でも採用され、ソーセージ作り体験などを通じた食育などにも活用されている。

日本のソーセージの父、大木市蔵像

「今年は大木市蔵氏がはじめてソーセージを品評会(第1回神奈川県畜産共進会)に出した1917年11月1日からちょうど100年目に当たります。その記念日であるソーセージの日にはここでイベントをしようと今、準備しているところです」

 と土屋さんは今後の予定を語った。取材の最後に大木市蔵の孫にあたる大木公一氏の自宅を訪れた。大木市蔵の生家、敷地内に大木市蔵の銅像が町を見守るように建っている。この銅像は横浜市中区元町にある厳島神社から移築されたものだ。

 変化を求められる時代だ。でも、大切なことはなにも変わらない。百年続く味は人の手から手へと大切に手渡されてきた。味は消えてしまう儚いものだ。でも、僕らはその形のないものを受け継いでいくことができる。これから先、百年後も、きっと。

(取材・文/小説家・料理人 樋口直哉、写真・映像/志賀元清)