ここ数年、日本企業におけるピープルアナリティクスの取り組みは、大企業からベンチャー企業に至るまで加速的な勢いで増え続け、その進化のスピードはとどまるところを知らない。前回までは欧米での先進事例やトレンドを中心にお伝えしてきたが、本稿からは、日本企業における実際の取り組みについて、各企業へのインタビューを通じて伝えていきたいと思う。今回は、従業員数約33万人を有し、人事領域においてこれまでもさまざまな先駆的な施策を打ち出してきた日立製作所の取り組みを紹介する。
日立製作所では、以前から人事領域におけるデータ分析に着目しており、2016年には自社における新卒採用にピープルアナリティクスの考え方を取り入れた。今回は、実際の取り組みの概要から、得られた効果、苦労話に至るまで、本取り組みを牽引した人財企画部 タレントマネジメントグループの中村亮一氏に話を聞いた。
「とがった人材」を
データ分析で定義する
2004年人事総務への仕事を希望し、日立製作所へ入社。同年、関西支社総務部へ配属され、労務・福利・人事・教育と幅広く人事総務業務へ従事した後、2010年から東京本社へ異動、約4年半技術系の採用業務に携わる。2015年2月より、現在のIT部門の人事担当として採用・ダイバーシティ・人員管理などの業務をメインに担当するほか、同部門のデータアナリティクスマイスター
北崎 まずは貴社でのピープルアナリティクスにおける取り組みの概要を教えていただけますか。
中村 私たちが、まず取り組んだことは、人材のデータ分析を通じた新卒採用改革になります。
具体的には、社内のハイパフォーマーの特徴分析や、過去の採用プロセスの分析から得られた定量的な情報を、どういったタイプの人材をどの程度採用するのかという人材タイプ別のポートフォリオづくりに活用し、新卒採用における選考基準や選考の再設計を行いました。
北崎 近年、欧米を中心として採用におけるデータ分析は一つの大きなトレンドとなってきていますが、貴社がそうした取り組みに踏み込んでいった特徴的な背景があるのでしょうか。
中村 当社は現在、変革期を迎えていて、事業そのものが大きく変わろうとしています。合わせてさまざまなプロセスや社内環境も変化している中、採用している人材が変わっていないな、という感覚がありました。当然ながら、こうした変化に対応していくため、いかにして「とがった人材」や「優秀な人材」を取るかという議論はなされていましたが、当初、その定義は非常に漠然としたものでした。
そもそも、「SE」や「営業」といった職種によっても“優秀さ”の意味は異なります。また当社は電力・交通といった重電分野からITまで多くの事業を擁しているため、求められる人材の定義は非常に多岐にわたります。それを可視化し、採用を変えないといけないという問題意識が大きかったですね。また、採用選考において何を基準にするか明確に伝わっていなかったため、面接官や採用担当者の過去の成功体験にもとづいて、採用可否が判断されるようなケースも少なくなかったと思います。事業が変わっていく中、過去の成功体験だけに縛られずに、いかにして採用すべき人材を見極めていくべきか、そのための一つの手段として「データの力」を使ってみようという判断になりました。